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食洗機から泡が吹きだして止まらない!途方に暮れた私を救った”化学的で冴えた”やり方

たとえば家の掃除をする時も、私たちは驚くほどたくさんの化学反応を経験しています。ケイト博士は土曜の朝、キッチンから掃除を始めるそうです。

SNSで話題沸騰の新刊『さぁ、化学に目覚めよう 世界の見え方が変わる特別講義』(ケイト・ビバードーフ:著、梶山あゆみ:訳)。テキサス大学で文系の学生に向けた授業を担当し、自他ともに認める化学オタクの著者(表紙写真で火を噴いている人物)が、高校から大学の教養レベルで学ぶ化学の基本原理と、日常にあふれる化学反応をわかりやすくユーモアたっぷりに語る一冊です。内容から一部を公開します。

食器用洗剤と食洗機用洗剤

最初にするのは、前の晩の食器をぜんぶ集めて、できるだけ自動食器洗い機に詰めこむことだ。プラスチック製のものは一番上に置く。そうしないと、食洗機の熱で変形するおそれがある(化学!)。大きな鍋やフライパンは一番下に入れる。
 
食洗機の科学はいたって単純だ。水が食洗機に流れこみ、洗剤が噴射される。大事なのは、普通の食器用洗剤と食洗機用洗剤を間違えないこと。というのも、そのふたつはまったく異なる分子でできているからである。

食器用洗剤に配合されている分子は肌に触れても安全なのに対し、食洗機用洗剤はもっときつい化学物質でつくられている。だから絶対に、間違っても、じかに触れようなんて気を起こしちゃいけない。
 
食洗機用洗剤の強力な分子が食器の汚れを除去し、汚れは排水口から吸いだされていく。ほとんどの食洗機用洗剤には、メタケイ酸塩や炭酸ナトリウムのほか、金属の水酸化物が含まれている。その多くは酵素と結合までしている。

食洗機が動きだしたら、こうした化学物質がさまざまなやり方で食器上の分子と反応する。アルカリ塩が油汚れを分解するあいだ、酵素はタンパク質の断片に取りかかる。こびりついたラザニアがこのふたつの分子と反応しなければ、金属水酸化物がその仕事を片づける。
 
これらの化学物質は一致団結して、食器に残った細かいかけらをはがし、それが熱い化学物質のシチューの中でさらに分解されていく。それらは食洗機の排水口から消えていき、あとは食器を十分にすすいで終わり。ほら、すっかりきれい!
 
面白い話があって、私は大学2年生のときに「食洗機の化学」の洗礼を受けた。ある日、私の食洗機からものすごい勢いで泡があふれだしてきたのである。どうやら家事の苦手なルームメイトが、食洗機用洗剤を入れるべきところに普通の食器用洗剤を入れてしまったらしい。おまけに、食器をものすごくきれいにしたかったので、ご丁寧に皿の1枚1枚に食器用洗剤をふりかけてもいた。

驚きの科学トリック!

大げさじゃなく、泡は何日も止まらなかった。とうとうにっちもさっちも行かなくなって、アフターサービスの窓口に電話をかけた。そしてやって来た修理担当の男性が、じつに気の利いた科学のトリックを見せてくれた。男性は植物油の入った大きな容器をもってきていて、まっすぐ食洗機に近づくと、少なくともカップ1杯くらいの油を中に入れ、あとは食洗機を2度回すようにと私たちに指示して帰っていった。
 
たちまち結果が現れた。
泡がぴたりと止まったのである。

食器用洗剤に含まれる界面活性剤と油が反応したからだった。界面活性剤は大きな分子で、親水性の側と疎水性の側をもっている。食器を手洗いする場合は、昔からこの性質を利用して食器から汚れを落としてきた。

界面活性剤の分子モデルの例(黒い玉=炭素:C、白い玉=水素:H、赤い玉=酸素:O、銀色の玉=ナトリウム:Na)。左端がCH3基をもつ親油基で、右端がCOONa基をもつ親水基!

どうするかというと、疎水性側が食べ物のかけらをつかみ、親水性側が水と結びつく。このおかげで、食物のかけらが楽々と食器から離れられるわけだ(シャンプーの界面活性剤が髪の油汚れを除去するのと同じである)。
 
われらがヒーローの修理担当者が食洗機に油を入れたとき、界面活性剤の親水性側が水と水素結合をつくり、一方の疎水性側と油とのあいだに分散力が生まれた。あとは水が食洗機から押しだされるときに、一緒に油分子も引きつれていったのである。

そもそもどうして泡が立ったのだろうか。泡が生まれたのは、洗剤中の界面活性剤分子がほかの界面活性剤分子(そう、同じ洗剤の)や水分子と水素結合をつくったからである。
 
この相互作用はとても強力なので、食洗機内の空気を中に閉じこめて泡ができた―数えきれないほどに。それで泡問題が勃発した。けれど、食洗機に油が加えられたことで界面活性剤の疎水性側が活性化し、最終的に食洗機の泡祭りが幕を閉じたのである。
 
鍋やフライパンの油汚れが食器用洗剤でよく落ちるのも、そこに理由がある。界面活性剤が親水性と疎水性という両方の性質をもつおかげで、食べ物と油の粒子を既存の(フライパンとの)結合から引きはなすことができる。油で汚れたフライパンを洗うときに、食洗機に入れるよりも食器用洗剤をじかにかけるほうがきれいになりやすいのもこのためだ。
 
フライパンの油はシンクの水を弾いてしまうので、仲をとりもってくれる存在―つまり界面活性剤―が必要である。それがあれば油をフライパンからはがして、水と一緒に流すことができる。
 
ただし、鋳鉄製のフライパンには食器用洗剤を使わないように注意してほしい。上質な鋳鉄製フライパンにはシーズニング(油ならし)がしてあって、薄い分子層が底面を隅々まで覆っている。そこに食器用洗剤を使用すると、界面活性剤の疎水性側がその分子と結合し、表面から引きはがしてしまう。
 
大好きなレイチェル・レイ〔アメリカの有名料理人でテレビパーソナリティ〕によると、鋳鉄製のフライパンを洗うには熱湯と粗塩が一番いい。塩の結晶の角の部分が厄介な分子に入りこみ、それをフライパン表面から物理的に押しだしながらも、シーズニングの分子と反応することはない。あとはお湯で洗い流し、底に少量の油を敷く。 

※『さぁ、化学に目覚めよう』の内容を一部抜粋・編集しています。

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