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植物のプロは、イチゴをこんなふうに見る

今日、4月24日は「植物学の日」。博物館や植物園に勤めてきた植物学の専門家が、知られざる植物の姿や魅力をつづった『植物のプロが伝える おもしろくてためになる植物観察の事典』(監修 大場秀章)から、お馴染みの果物にまつわる一節をご紹介します。

文:大森雄治(元横須賀市博物館学芸員)
イラスト:山口ヒロフミ

何が果実でどれが種子?

果実と種子の区別は、なかなか厄介である。イネ科やキク科の果実のように果皮がとても薄く、ほとんど種子だけの果実もあれば、種子のまわりに子房だけでなく、花托(かたく)や花びらや萼(がく)などがまつわりついているもの、さらに小さな果実が集合したものなど、果実の実体は複雑なものになっている。

被子植物の分類では、花のかたちがもっとも重要な形質とされ、科の特徴も花によく現れているが、ドングリをつくるブナ科、さやのある果実をつけるマメ科などのように、果実の特徴で明確に分別できるものもある。逆にバラ科などは、一つの科の中で多様な果実をもっているグループといえる。果物屋や八百屋の店先に並ぶ、ウメ、サクランボ、リンゴ、ナシ、ビワ、イチゴはいずれもバラ科の一員である。

果物のどこを食べているか?(その1)

バラ科の中でもっとも単純な果実は、モモ、サクラ(サクランボ)やアンズ、ウメの果実である。雌しべから花柱がとれ、子房が成長して外側が皮(外果皮)と多肉質(中果皮)に、内側が硬化して核となったもので、その硬い内側の果皮(内果皮)を割ると、中から1個の種子が出てくる。サクランボやモモでは、私たちが食べている部分は子房に由来する果皮である。

果物のどこを食べているか?(その2)

リンゴでは、柄と反対側のお尻の部分をよく見ると、5枚の萼片が残っていることがわかる。その奥には枯れた雄しべや花柱も見られる。縦に割ると、中心部に俗に芯と呼ばれる固い部分があり、その内側には種子がある。リンゴでは芯が雌しべの子房であり、サクランボとは違ってここはふつう食べない。私たちが食べるのは、子房をとり囲み多肉化した萼の筒の部分、つまり萼筒(がくとう)である。

イチゴの粒は雌しべの数だけ…

イチゴには、野草で知られるキイチゴ類やヘビイチゴ類、そして店先に並ぶイチゴがある。いずれも花には雌しべが多数あり、果実のつくりは複雑である。

果物のどこを食べているか?(その3)

キイチゴ類はラズベリーとも呼ばれ、多肉質の粒々の中にそれぞれ1個ずつの種子が入っている。いわば、たくさんのサクランボがひとかたまりになったようなものである。

果物のどこを食べているか?(その4)

一方ヘビイチゴ類や、ストロベリーと呼ばれるイチゴは、実の外側に点々とついたゴマのような粒1個が、1個の雌しべに由来する。雌しべの子房は、薄い皮だけになったのだ。代わりに、萼や花びらがつく花の台座ともいえる花托が多肉質になり、そこを私たちが食べているのである。

いわゆる果物や、トマトやニガウリなど、果実としての野菜を食べるとき、花ではどの器官だったところを食べているのか想像すると、花から果実への、植物ではもっとも劇的な形態の変化を感じていただけると思う。


植物学のプロフェッショナルが披露する植物の真の姿。
植物を⾒る⽬が変わる︕

内容紹介

博物館や植物園に勤めてきた植物学の専⾨家が、知られざる植物のすがたや魅力を語ります。
「⾍のオーダーメイドでできた花」「同じ⽔草が姿形の異なる葉っぱをつけるワケ」「敵を死にも⾄らしめる、植物の化学兵器」「植物はなぜ毒を持つ︖」などなど、植物観察がいっそう楽しくなる全83編の特別レクチャー︕ 読むとおどろき、花や草⽊を⾒る⽬が変わる知識が満載です。


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