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「算数が苦手」で将来を狭めてしまう子を減らしたい。"知の巨人"が、算数の入門書を書こうと思った理由。

山と溪谷社では、2022年9月17日に『さんすうの本』を発刊します。著者は、社会学者であり、東京工業大学名誉教授の橋爪大三郎氏です。

社会学者である著者が、なぜ、算数の本を?
そこには、氏が20代の頃から現在にいたるまで、子どもたちに向け続けたある想いがありました。

本書から、「あとがき」の一部を公開します。

あとがき(保護者の皆さまへ)

なぜ本書を書こうと思ったのか。それを最初にお話しします。

私は、18歳から定職をうるまでの20年あまり、家庭教師で収入をえていました。教えた生徒はのべ100人以上、小学校低学年から大学受験生まで。他にも、大学院の自主ゼミで数学を教えていました。おかげで、小学校の算数や中高の数学が将来の専門にどうつながるのか、流れが体に染みついています。

教え子は、みな似たようなところでつまずきます。そこをちょっとサポートすると、調子が出てどんどん伸びます。やりがいがある半面、複雑な気持ちになります。家庭教師はぜいたくです。塾や予備校だってお金がかかります。「ちょっとサポート」がえられない子どもたちは、どうするのだろう。

家でほうっておかれているかも。ちょっとのつまずきが、そのうち「さんすうわからない」「さんすうきらい」になって、その子の将来を狭めてしまうのではないか。

学校の先生はがんばっていると思います。でも、授業のやり方はがんじがらめに決められていて、生徒一人ひとりの進度や理解によりそって、授業を進めるのは無理です。授業について行けなければ、置いてきぼりです。そんなふうに、心ならずも学校でつらい時間を過ごしている子どもが、大勢いると思います。

学校の算数と折り合いの悪い子どもも、きっと、数の世界の魅力がわかります。数の世界の楽しさに、触れるチャンスがなかっただけです。そのチャンスをつくりたくて、『さんすうの本』を書くことに決めました。

この本は、教科書でも参考書でも、問題集でもありません。絵本です。ふしぎの国に迷い込んだアリスのように、すみれはナンバーランドに招かれます。

そして、数の世界のひみつを、少しずつ教えてもらいます。小学校の算数がなにをやっているのか、全体が見通せるようになるのです。

この本は、学年がありません。1年生の最初から、6年生まで、いや、中学や高校の内容だって混じっています。低学年の子は、この先どんなことを習うのだろうと、のぞいてみることができます。高学年の子は、これまでの復習をかねて、読み物として楽しめます。

だれだって、なにかが理解できるのは、楽しいんです。楽しくなければ、算数じゃない。計算が速いかおそいか、答えが合っているかどうか。そんなことは二の次です。算数を好きになってほしい。それが私の願いです。

でもこの本が、肝心の子どもたちの手に届くのかどうか。
定価が1700円は、安くありません。スーパーで値段を気にして買い物しているふつうの感覚だと、ためらう金額です。そこで、図書館や学級文庫に収めてもらうのが、まず目標です。それなら、家計に余裕のない家の子どもも、借りて読めるからです。

本棚に本が少ない児童施設などがもしあれば、版元に連絡いただければ、寄贈できるかもしれません。とにかく、必要な子どもたちに本を届けたい。そして、日本の教育を豊かで楽しいものにしたいと思います。

小学生も心配ですが、大学院生も心配です。大学院を出ても就職がなく、アルバイトでつないでいる人びとを、オーバードクターといいます。かつて私もそうでした。塾や予備校には、こうした人びとが大勢います。

この本に出てくる天使のじょうじやあんなは、彼ら彼女らの姿です。日本の学術の将来は彼らにかかっています。でも彼らはきちんと処遇されず、苦しんでいます。そうした人びとに、光が当たってほしい。その願いも、本書にはこめられています。

2022 年8 月1日  橋爪大三郎

著者略歴/橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう)
1948年生まれ。社会学者。大学院大学至善館教授。東京工業大学名誉教授。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。著書に『はじめての構造主義』『はじめての言語ゲーム』『正しい本の読み方』(ともに講談社現代新書)、『面白くて眠れなくなる社会学』(PHPエディターズ・グループ)、『だれがきめたの? 社会の不思議』(朝日出版社)、社会学者・大澤真幸氏との共著に『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)などがある。小学校低学年から大学受験生まで、のべ100人以上の子どもたちに算数・数学を教えてきた経験から、「算数のつまずき」をサポートする重要性を痛感。本書は、著者はじめての子ども向けのさんすうの本となる。

デザイン/杉山健太郎 イラストレーション/カシワイ

東京大学教授 西成活裕氏 推薦!!
「本書は、ふしぎで素敵な数の世界の物語。
算数のつまずきやすいところが楽しく突破できる。」

すみれが9歳になった誕生日の夜のこと、ベッドのそばに天使があらわれて家の外へさそわれます。
そしてたどりついたのは"ナンバーランド"というふしぎの国でした――。
たし算、分数、図形、約数、ピタゴラスの定理。
天使にみちびかれて11の建物をめぐるうち、数のひみつがときあかされていきます。
さんすうって、よくわからない。
そんなあなたも、もう、大丈夫。
数の国"ナンバーランド"へようこそ!

「あのね、世界は数でできているんだよ。」

算数にとまどう小学生に、数学が不安な中学生に、大人の学び直しにも最適の一冊です。


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