【読書感想文】白貌の裏側にある混沌と狂気 ~虚淵玄が描くダーク・ファンタジー~『白貌の伝道師』
白貌の伝道師は、2012年に刊行された虚淵玄の代表作のひとつであり、混沌と破滅に満ちたダーク・ファンタジーの傑作です。
あらすじ
人間とエルフの血を引く少女アルシアは、伯爵の嫡子であるアーウィンに裏切られ、野盗に陵辱された末に、白貌のエルフ・ラゼィルに助けられます。彼はアルシアの故郷である谺谷のエルフたちと共に、人間への復讐を計画しますが、その裏には混沌神グルガイアへの狂信と殺戮への快楽が隠されていました。そんなラゼィルの正体とは・・・
本作の特徴とテーマ
本作の特徴は、その残酷さと狂気にあります。実際に登場人物たちは、互いに裏切り、嘘をつき、殺し合うことを厭いません。エルフやダークエルフといったファンタジー要素に彩らいていますが、それらは美化されず、むしろ醜悪さや邪悪さを際立たせる役割を果たしています。例えば主人公のラゼィルは、混沌神グルガイアへの献身という信念を持っており、そのためならば何でもする冷酷なキャラクターです。彼は自分の美しい容姿を利用して人々を騙し、殺戮や陵辱を楽しみ、彼が最も愛した存在であるアルシアも例外ではありません。
本作は虚淵玄が得意とする「絶望」や「狂気」を描いた作品であり、その点では『魔法少女まどか☆マギカ』や『Fate/Zero』などと共通するテーマが見られます。そして、それらがより過激かつ過剰に表現されており、読者の心理的な耐性を試されるのが本作の特徴と言えます。救いや希望はなく、最後まで暗闇に包まれたまま物語は進行します。
どんな人におススメ?
本作は、虚淵玄の初期の作品であり、彼の作風や思想の原点を垣間見ることができる作品です。また、あきまんの挿絵も本作の雰囲気に合っており、美しくも恐ろしい世界の表現に一役買っています。虚淵玄の闇の深さを知りたい人や、ダークファンタジーのファンにはおすすめできます。一方で、その内容は非常に残酷であり、ダークファンタジーに耐性のない人は、読む際に注意が必要かもしれません。
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