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【読書感想文】歴史の転換点に立ち会う感覚を味わえる物語『レーエンデ国物語 月と太陽』

多崎礼氏が紡ぐファンタジー小説の続編です。本作では、名家出身の少年ルチアーノが、屋敷襲撃から逃れ、レーエンデ東部の村に辿り着く物語が展開されます。そこで出会った怪力の少女テッサとの出会いが、物語の転換点となります。

村での新たな生活に馴染んでいくルチアーノですが、その平和は長くは続きません。村の危機を救うため、テッサは戦場へと向かうことを決意します。これを機に、物語は壮大なスケールへと広がりを見せます。

本作の見どころは、登場人物たちの成長と変化を通じて描かれる、国家や民族間の争いの描写です。特に、テッサの活躍は圧巻で、彼女が憧れの人物と対決するシーンは、心を掴んで離しません。また、抑圧されていた者たちが武器を持ち、立場が逆転した際の描写は非常にリアルで、息を呑むほどの迫力がありました。

加えて、多崎氏の筆力は、細やかな情景描写にも遺憾なく発揮されています。藁葺き屋根の村や活気に満ちた炭鉱、色鮮やかな収穫祭の様子が生き生きと描かれ、まるでその場にいるかのような臨場感を感じさせます。

しかし、本作はハッピーエンドでは終わりません。テッサの最期や、封鎖された古代樹の森、孤島城に住む法皇など、変わりゆく世界の姿が描かれます。そして、ルチアーノとテッサの決断が国の運命を大きく変えたことが示唆され、次巻への期待を高めてくれます。

私は本書を読んで、歴史の転換点に立ち会うような感覚を覚えました。登場人物たちの成長と共に、世界の様相が大きく変化していく様は圧巻です。同時に、戦争や民族間の対立がもたらす悲劇も鋭く描かれており、現実世界の問題とも重なって読後感は複雑なものとなりました。

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