見出し画像

【読書感想文】宇宙的恐怖の本質を緻密なプロットで解き明かす『時間からの影』

H.P.ラブクラフトの「時間からの影」は、記憶を失い、異なる人格として目覚めたナサニエル・ウィンゲート・ピースリー教授の奇妙な体験を描いた作品です。1908年のある日、突如昏倒し、目覚めたピースリーは記憶を失っており、その後5年間にわたり、異常な速度で様々な学問を習得します。彼の足跡はヒマラヤやアラビアへと続きますが、1913年に再び昏睡状態に陥り、目覚めた時には元の自分に戻っていました。しかし、その5年間の記憶は完全に失われていました。ピースリーは自身の失われた期間に何が起こったのかを探求し始めますが、その過程で奇妙な夢に悩まされます。

この物語の見どころは、主人公の失われた時間に対する探求と、それによって明らかになる驚愕の真実です。ラブクラフトは、読者を不可解な謎と恐怖の淵に引き込みます。この物語を読んで、人間の意識と記憶の脆弱性について深く考えさせられました。特に、ピースリーが夢の中で遭遇する異世界の描写は、その細部にわたる描写力に感動しました。

この作品は、ラブクラフトが描く宇宙的恐怖の本質を、緻密なプロットと共に堪能できる一冊です。心理的な深淵を覗き込むような、その独特のスリルには、まさに息を呑むほどです。まるで、我々の知る現実が一瞬にして霧散するかのような、圧倒的な物語性と深遠なテーマが強く心を捉えます。

総評として、「時間からの影」は、ラブクラフトの作品群の中でも特に思索的。彼の独特な文体と、心理的な恐怖を描く手法は、今読んでも色褪せることがありません。ぜひ手に取って、その眩暈を誘うような体験を自らの目で確かめてみてください。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?