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【読書感想文】行商人と賢狼、経済を巡る冒険譚『狼と香辛料』

中世ヨーロッパを思わせる世界を舞台に、行商人ロレンスと狼の耳と尻尾を持つ少女ホロが繰り広げる物語シリーズ第一弾。

本作の見どころは、なんと言ってもホロという存在感あふれるヒロインです。冒頭、ある村を通りかかったロレンスは、自分の馬車の荷台で眠る少女を発見します。驚くべきことに、その少女には狼の耳と尻尾がついていました。最初は半信半疑だったロレンスですが、やがてホロの旅への同行を認めます。

豊作の女神を自称するホロですが、彼女の正体はなんと、数百年の時を生きてきた賢狼でした。その言動は時に子供っぽく、かと思えば大人びており、ロレンスを翻弄します。この独特な口調と態度に、私は読み進めるうちにいつの間にか虜になってしまいました。

物語では、そんな二人の前に、銀貨が値上がりするという儲け話が持ち上がります。この展開にも、私は大いに興味をそそられました。なぜなら本作はファンタジーでありながら、それまで自分が読んだことのなかった、経済の仕組みや儲け話に翻弄される人間心理を巧みに描いた作品だったからです。行商人であるロレンスは儲け話に乗りますが、その過程で様々な障害に直面します。そこでホロの知恵が光りますが、彼女の言動には常に謎が残ります。本当に神なのか、それとも詐欺師なのか。その真相は最後まで明かされません。

読み終わって感じたのは、本作が単なるファンタジー小説の枠に収まらない奥行きを持っているということ。ロレンスとホロの掛け合いは軽妙で、時にユーモラスです。しかし、その陰には孤独や寂しさといったテーマが隠されています。ホロは故郷への帰還を望んでいますが、そこにはもう誰も待っていません。そんな彼女の複雑な心情が、繊細に描かれているのです。

経済や取引をめぐる駆け引き、ロレンスとホロの絶妙な関係性、そして各々が抱える思いなど、様々な要素が絡み合った本作。この世界に一歩足を踏み入れれば、きっと旅の続きが気になってしまうに違いありません。

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