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【読書感想文】ろうそくの炎に映る、悲しみと希望の物語『赤い蝋燭と人魚』

小川未明の『赤い蝋燭と人魚』は、北の海に棲む人魚とその娘の物語を通じて、人間の欲望と自然の力の交錯を描いた感動的な作品です。この物語は、暗く冷たい海に住む人魚が、人間世界への憧れと子供への愛情から、陸に子供を託すところから始まります。

物語の中心には、老夫婦に育てられた人魚の娘がいます。彼女は美しいろうそくに絵を描く才能を持ち、その絵付けろうそくは町の繁栄をもたらします。しかし、人魚の娘が描く絵の背後には、彼女自身の深い孤独と、育ての親への恩返しのために身を粉にする姿が隠されています。彼女の絵付けろうそくは、ただの商売道具を超え、人々に幸運をもたらす神聖な存在として扱われるようになります。

私がこの作品を読んで感じたのは、小川未明の描く世界の深さと、登場人物たちの感情の豊かさです。人魚の母親が娘の幸せを願う姿、育ての親である老夫婦の変わりゆく心情、そして何よりも人魚の娘の純粋さと悲しさが、鮮やかに描かれています。特に、娘がろうそくに絵を描くシーンは、彼女の内面の葛藤が繊細に表現されていて、印象的でした。

私が本書を読んで得られたことは、人間の欲望がもたらす悲劇と、自然の力の偉大さです。物語の最後に訪れる悲劇的な結末は、我々に人間の愚かさと自然への畏敬を再認識させます。また、母親の無償の愛と、その愛がもたらす運命の重さについても考えさせられました。

本書は短いながらも非常に濃密な物語です。小川未明の筆致は美しく、情景描写やキャラクターの心情描写が見事に調和しています。子供から大人まで幅広い層に読んでほしい一冊です。

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