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【読書感想文】夢か現か、灯台守の幻想航海記『新版ラブクラフト短編集2 Kindle版』

本書に収録されている短編より「白い帆船」を紹介します。

海を眺めることで日々を過ごす灯台守のバザル・エルトン。彼はいつしか、大洋が秘める謎に心を寄せていました。ある満月の夜のこと、南から現れる白い帆船に誘われる幻想に魅了されたバザルは、ついにその誘いに応じる決心をします。 月明かりの橋を渡り、帆船に乗り込んだ彼は、夢幻の土地へと旅立ちました。

航海は幻想的な世界を巡る冒険へと発展していき、バザルはザルの台地やタラリオンの都、ズーラの地を目にしますが、そこに上陸することは叶いませんでした。 彼の旅は、時間も苦も死もないソナ=ニルの港に到達し、そこで永劫にも思える時を過ごします。しかしながら、バザルはさらなる冒険を求め、幻の地カトゥリアへの航海を試みますが、その旅は失敗に終わってしまいました。 荒れ狂う海に船は飲み込まれ、バザルは人間よりも偉大な神々の存在を認めざるを得なくなります。

やがて、目を覚ましたバザルは、灯台の見張り台に戻っていることに気づきます。彼の旅は夢だったのか、それとも現実だったのか、はっきりしませんでした。 灯台の火が消え、大洋はもはや彼に秘密を語ることはなかったのです。

著者のラブクラフトの作品は、常に読む者を異世界へと誘うものです。 この短編も例外ではなく、彼の描く神秘的な世界観には、読み進めるほどに引き込まれてしまいます。 特に、バザルが体験する幻想的な旅路は、想像力をかき立てられるものでした。 彼の心情の変化や、神秘的な土地への憧れ、そして最後には人間の限界を受け入れざるを得ない葛藤が、本作にもしっかり描かれていました。

本作を読んだ後、私は、奇妙で不可思議な感覚がしばらく残り、作品世界から抜け出せないでいる自分に気づかされました。

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