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【読書感想文】近未来モスクワの陰鬱な街路を疾走する掃除屋の物語『モスクワ2160 (GA文庫) 』

本書の舞台はモスクワで、時代は西暦2160年の近未来が描かれています。主人公のダニーラは、愛する恋人スターシャと弟妹たちのために、命がけの仕事に従事する「掃除屋」と呼ばれる人物です。

街では、戦争から生き残った機械化兵がうろつき、電脳網を通じて市民が監視されています。政府系組織や西側諸国のスパイ、マフィア間の確執が絶えず、自由も真実も未来も失われた社会で、ダニーラは銃を手に取り、生き残るために走り続けるしかありません。

読み進めると、現代社会への批判が色濃く感じられ、絶望感に襲われますが、ダニーラの家族愛に支えられた生き様に心を打たれ、希望の光が差し込むように感じられます。極限状況下で生きる彼の姿から、私たち現代人も学ぶべきものがあると思わされます。

ダニーラがスパイを射殺する冷徹なエピソードがある一方で、スターシャとの甘酸っぱいベッドシーンや、弟妹への愛情に満ちた行動も描かれており、その対比が印象的です。人間らしい部分とスリリングな部分が見事に融合されている点が素晴らしいのですが、説明が多い箇所があり、もう少し要約すると読み応えが増すかもしれません。

結末は残酷ながらも希望を感じさせるもので、自由と真実の訪れる時代を夢見させられます。この小説を通じて、我々は現代社会を手放しで肯定することなく、人類の未来について深く考えさせられるのです。

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