【読書感想文】料理と猫が繋ぐ、兄妹の小さな世界『きみと暮らせば』
両親を亡くした社会人の陽一と中学生のユカリ。本書は、義理の兄妹である二人が、互いに支え合いながら暮らす日々を綴った物語です。
冒頭では、そんな二人の元に一匹の猫が姿を見せました。二人は猫を飼い主に返そうと奔走するのですが、その過程で様々な出来事に遭遇します。本書は、こうした些細な日常の出来事の中で、陽一とユカリの関係性や、周囲の人々との交流を丁寧に描いており、読み進めるうちに、私はいつしか二人の世界に引き込まれてしまいました。
見どころは、日常の何気ない瞬間のひとつひとつに、陽一とユカリの生き様や人間性が手に取るように見えることです。例えば、ユカリが亡き義母のレシピ帳を参考に料理を作る場面があります。そこには単に腹を満たすだけでなく、家族の記憶や絆を大切にする心があふれているのです。こうした細やかな描写が、温かみのある雰囲気を物語全体に醸し出しています。
また、登場人物たちの成長も印象的です。仕事と家事の両立に奮闘し、責任感を持って妹の保護者であろうとする陽一。一方で、ユカリは、兄の苦労を理解しながらも、何もできずにいる自分から独り立ちしようと前に進みます。何気ない日常の連続と並行しながらも、少しづつ二人が成長していく様子がわかるのです。
本書を読み終わって、私は、家族の形は様々なんだということにあらためて気づかされました。陽一とユカリのように、たとえ血のつながりがなくても、互いを思いやり支え合う関係性こそが、本当の家族なのかもしれませんね。
そんな家族の在り方について考えさせてくれる、心温まる一冊でした。
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