しほちゃんは、ういている#10
大学生の男はしほちゃんの隣に座った。汗くさい。襟がくたくたになったエルトン・ジョンのTシャツからはタバコの匂いがする。腕には青やピンク、黄色のカラフルなリストバンドを付けている。
「入院してんの?」
しほちゃんは気だるそうに「熱中症」と答えた。大学生の男はその後も、なにかにつけて話しかけてくるので彼女は適当に「はい。うん。へえ。そうなんですか。」など相槌を繰り返した。そんなやりとりが暫く続いた。彼女は心の中で早く終わんないかなと願い続けた。
この時点でしほちゃんは、こいつの着てる服も匂いも声も顔も気の使い方も全部嫌いだと思った。
「HINDSて知っている?」
「…知らないです」
「この間のフジロックでHINDS初めて見たけどちょー盛り上がったよ。文化祭みたいだった。あとYOSIKIも来てフジロック!フジロック!てずっと叫んでた。あれ笑ったわ。くそ暑い中、みんな命削っててまじサイコーだった。ロッキンもサマソニも早く行きてえ。今度一緒にいく?」
「人混み苦手」
大学生の男は、じぶんの財布からiTunesのカードを取り出してしほちゃんに渡した。
「これで聞きなよ」
「…いらない」
「あげる」
無理やりiTunesカードを渡し、強引に彼女のLINE IDを交換すると大学生の男は「またね」と何処かへ行ってしまった。
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