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降り落ちる雨は、黄金色#11

「この抗鬱剤は、都内のクリニックで一番飲まれている軽めのだから安心してね」
と薬剤師のおじさんは優しい口調で教えてくれた。

都会には心が病んでいる人が沢山いるのだ。毎日、朝早くから満員電車に押し込まれて疲れた顔をして優先席に座る大人を見ると、病まない方が異常だ。

 鬱病はそんなに珍しいものではない事がわかると、心が軽くなった。よくあること。薬剤師のおじさんはアメリカでは、心が不調だと思ったらすぐにメンタルクリニックに行くんだよと教えてくれた。こんな事ならもっと早くに、クリニックに行けば良かったと後悔した。家で寝込んでいた、あの不毛な時間は何だったのだろう。

 家に帰りドラクエの攻撃魔法のような禍々しい名前の薬を、一粒飲むとその日は何事もなかったかの様にぐっすりと眠れた。

 薬の効果は絶大だった。あんなにも眠れなかったのに、一粒飲んだだけで快眠できた。 嘘みたいだ。食欲も戻ってきた、なんでもいいから甘い匂いのする果物が食べたい。 桃がいい。栄養価もたかそうだ。

 家族全員が寝静まってから台所に行くと、テーブルの上に一本のバナナがあった。 夜は果物の香りがつよくなる。その芳醇な香りに吸い込まれ、花の蜜に吸い寄せられた昆虫のようにバナナを貪った。

 私は食べ終えたバナナの皮に手を伸ばし、ゆっくりと爪をたてた。すると黄色い汁が染み出して、指で撫で回すとべたついていた。

第二部 完

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