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【番外編】議員の任期延長について #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

国会議員と地方議員の任期の違い

衆議院憲法審査会で、国会議員の任期延長が議論されています。しかし、議論されている内容について、論理が逆立ちしているのではないか、そんな気がしてなりません。

議員の任期については、衆議院議員が4年(ただし、任期満了前に解散の可能性あり)、参議院議員が6年(3年ごとの半数改選)ということや、知事、市町村長、地方議会議員の任期が4年ということは、多くの方がご存じのことと思います。しかしこの任期は、憲法上のものか法律上のものかという違いがあります。

衆議院議員、参議院議員の任期については、それぞれ憲法に規定されているのに対して、地方の首長や議員の任期については憲法で定められているわけではなく、地方自治法という「法律」で定められています。

第45条 衆議院議員の任期は、4年とする。但し、衆議院解散の場合には、その任期満了前に週了する。
第46条 参議院議員の任期は、6年とし、3年ごとに議員の半数を改選する。

日本国憲法

第93条第1項 普通地方公共団体の議会の議員の任期は、4年とする。
第140条第1項 普通地方公共団体の長の任期は、4年とする。

地方自治法

問題の所在

このことは大きな違いといわなければなりません。つまり、地方の首長や議員の任期については、法律事項ですから、3年にしたり、5年にすることも法律の改正で論理的には可能です。実際、東日本大震災の直後には、地方選挙の実施が難しいとして、特例で任期を延長した自治体もありました。

これに対して、国会議員の任期については、憲法で定められていますから、法律でこれを伸縮することはできません。したがって、大震災の直後に任期満了を迎えたとしても、法律で選挙を延長することはできないことになります。

このことから、もし、国会議員の任期を延長しなければならないような事態があるとした場合、論理的には憲法改正によらなければならない、というのはそのとおりということになります。

しかし、憲法を改正しなければならないような不都合があるのかについては、現行の法制度を前提として議論がされているように思われます。

憲法と法律

いうまでもないことですが、憲法に違反する法律を制定することはできませんし、万が一そのような法律があれば、その法律は改正されなければなりません。また、憲法に規定されている価値を実現するために法律に不備があるのであれば、法律を改正することが必要です。憲法が上位の規範で、法律は憲法に対して下位の規範だからです。

ところが、議員任期の問題に関しては、下位の規範である法律を前提として、上位の規範である憲法について論じているきらいがあります。

どういうことかというと、大震災の直後のような場合、あるいは、近年われわれが経験した感染症の爆発的流行の下では選挙を行うことが適切か、という問題提起は、現在の公職選挙法を前提としてしまっているということです。

つまり、原則的に投票日に有権者がいっせいに投票所に足を運び、候補者の氏名を投票用紙に記入して投票箱に投函すること、これがむずかしいから憲法改正だ、という議論になっているのではないでしょうか。論理が逆立ちしているというのは、この点です。

このような選挙の方法は、憲法で決まっているわけではなく、公職選挙法で決まっていることです。不都合があるのであれば、公職選挙法の改正によって解決されるべきことです。つまり、どうにも現在の法律の運用を前提にして憲法改正が必要だという議論になっているように思えてなりません。

「密」を避ける、という目的であれば、電子投票などで対応できないか、大規模災害の直後であれば、避難所での投票はできないか、その際の本人確認などはどうするのかなど課題はあるでしょうが、その可能性について検討されるべきと考えられます。つまり、非常時の選挙がどうあるべきかは、公職選挙法の改正について議論されるべき事柄のはずです。それでもどうにも知恵がない、不都合が生じる、法律改正では選挙権の行使を確保することがどうしてもできない、ということになって初めて、議院の任期について憲法改正が必要かどうか、という検討をするのが論理的な筋道だと考えます。

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