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【第70回】大陸法の反論権~放送 原則はどちらか #山花郁夫のいまさら聞けない憲法の話

1. 反論権制度の広がり

ところで、反論権について、サンケイ新聞事件最高裁判決はきわめて否定的なのですが、フランスやドイツ、イタリアやベルギーなど、ヨーロッパの諸国では、普通に行使されている権利です。

ヨーロッパの反論権の制度は、19世紀から存在していますから、「送り手」と「受け手」の乖離という現代的な現象を受けて制度化されたものではありません。20世紀になってからも、1985年にスイスが反論権を制定したり、21世紀に入っても2004年、ヨーロッパ評議会において、インターネットを念頭においた「新たなメディア環境における反論権」に関する閣僚委員会勧告というものが採択されています。

憲法違反どころか、ヨーロッパではむしろ広がりを見せている制度ということができます。

2. プレスにおける反論権

反論権制度については、昔からフランスの制度が参照されてきました。ヨーロッパに広がった反論権制度の起源はフランス反論権法だからです。

その特徴は、まず、「指名又は指示」によって成立すると紹介されることがあります。ポイントは、名誉毀損を要件としていない、不法行為を要件としていない、ということです。

そして、反論者が作成した反論文を、元の記事と同様の条件すなわち、掲載箇所であるか活字の大きさ、さらには同じ文字数ないしページ数で掲載することが必要とされているということです。ただし、文字数やページ数については上限が定められています。

3. 放送・インターネットにおける反論権

フランスでラジオの放送が始まったのは1921年のことですが、それから約半世紀後の1972年、放送についての反論権を定める法律が制定されました。
プレスにおける反論権よりも要件が限定されています。プレスの場合にはある人が「指名又は指示」されただけでも成立しましたが、名誉、評判又は利益を侵害する放送であることが必要とされました。

さらに2004年に、インターネットにおける反論権を認める法律が制定されます。しかしこれは、放送型ではなく、プレス型の反論権制度です。

4. 反論権のモデル

後からできたインターネットの反論権がプレスと同様であることからも、あくまでも原則的な形態はプレス反論権法である、という議論があります。放送の場合は例外的に反論権の成立範囲を狭めたものである、ということです。

なぜこのような違いが生じるかについては、次のように考えることができます。

プレスの場合も、インターネットの場合も、反論文が掲載されることによって、紙面、画面上のスペースが割かれるという側面がありますが、紙面もスペースも増やそうとすれば可能であるのに対して、放送の場合には、時間が有限であるという違いです。放送の場合には、プレスやネットの場合と比べて、反論権の成立範囲を限定する必要があるということになります。

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