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1. なぜ、ジオパークは地質遺産を守るのか?

 6月5日の山口大学地質講習会(非公開)において、平朝彦教授(東海大学海洋研究所所長)が「人新世ー人間の地質時代」について講演なさった。そして、NHKでは、6月11日にNHKスペシャル『ヒューマンエイジ(人間の時代)』第1集 「人新世 地球を飲み込む欲望」が放映された。どちらも、地球史上最も繁栄した動物「人類」が地球上で引き起こしている問題とそれに伴う未来について、警鐘をならしていた。
 私の最初の印象は、絶望であった。繁栄しすぎた人類の最期は、もう迫っている。私たちに残されているのは、絶望的な未来だ。そう思った。しかし、NHKの番組に登場した恐竜学者は、小林快次氏は「人間は絶滅することは決まっている。」と言う。そう言われるとなるほどそうである。だとしたら、我々は何を恐れているのか?なぜ、地球温暖化防止のための活動をするのか?未来に向けて、私たちがするべきことは何か?なかなか答えが見つからない。
 そうしたとき、人類の絶滅を、人間個人の寿命と考えてはどうかと、思い至った。人類も絶滅するように、人間は確実に死ぬ。人間は死ぬから、何もしないのか?ただ絶望して毎日を暮らしているのか?そうではない。確実に死ぬのに、コレステロール値や血圧を気にして、薬をのみ、運動をし、健康によい飲み物を飲む。それは、何故か?少しでも長生きする。その長生きは、ベッドに縛られて、生命維持装置で長生きするのではなく、健康で楽しく長生きしたいと思って、あれこれ試している。それと同じように、地球上に生きる人類全体にとって、人類が子孫をできるだけ長く繋いで行きたい、それも子孫が健康で楽しく生きていけるように、そんな未来を残したい。そう思っているのではないか?人類全体のの健康長寿(個人の長寿ではなく、人類全体が絶滅せず、子孫が長く繁栄すること)を目指すことが、ジオパークを始め、世界各地で心ある人々がやっている活動ではないか?SDGsについてもしかり、気候変動対策についても、しかり。個々の人間の幸せを追求する以外に、人類全体の未来も考えて行動する。それが私たちの未来なのではないか?ジオパークはそのような活動として捉える必要がある。
 ジオパークは、国際的社会活動の1つで、ユネスコの傘下にある。ジオパークは、地質遺産の保護と利活用によって、地域の持続可能な開発を行う社会運動であり、地質遺産を守れ!と厳命されている。そうした指導に対して、地域を守るためには、地質遺産を守らなくても良いのではない?という考えも地域の人々にはある。それは、なぜ地質遺産を守らないといけないのか?分かっていないからである。
 ジオパークは、生きている今の自分、これから生き延びていく人類のどちらに重心があるのか?そう考えたとき、答えは明らかである。ジオパークは、人類の未来への活動なのである。ジオパークを所管しているユネスコが国連機関であり、SDGsなど地球全体の未来を考える機関であることを考えると納得がいく。
 個人が幸せに長生きすることは、基本個人の責任である。もちろん、それを支える自治体や政府はそれを支援する必要がある。しかし、個人の欲望のベクトルは、様々な方向に向けられている。そして、その欲望は、他人の幸せをしばしば阻害する。人間は、自然のままにしていては、戦争、とくに核戦争に突っ走る可能性がある。強いものが弱いものをいじめ、強い国が弱い国をいじめ、大金持ちがさらに大金持ちになり、沢山の貧乏人を生む。自然のままにした人間は、確実に自らの欲望によって、破滅的な未来をもたらすことは容易に想像できる。
 動物の大半は、神経伝達物質ドーパミンが中脳でのみ作られるが、人間だけが、大脳新皮質でもドーパミンが作られ放出される。このことが、人間にとって福音でもあり呪いでもあるらしい。知的活動を行う大脳新皮質でドーパミンが作られるということは、人類の発展に貢献もしたが、欲望に際限がなくなり、地球環境を悪化させることにも大きく影響を与えた。
 そこで、個人個人の脳の作用に任せるのでは無く、多くの人々の良心を結集して、個人の幸せを制限し, 人類全体で幸せになり、それが長く続き、未来の子孫(それは自分たちの直接の子孫でなくても)が幸せに長く繋がっていく道を探そうとしている活動が、世の中に沢山あり、ジオパークは、その1つである。そう考えると、ジオパークは地質遺産が大切だから守るのではない。地球に生きている私たちの子孫が長く続き、幸せに暮らせる未来を残そう、そのためには、地質遺産を守り、そこに記録された地球の歴史を解明して、未来に生かそうとしている。つまり、地質遺産を守るのは、地球に暮らす私たち人類の子孫のためである。今の自分だけが幸せであれば良い人には不向きな活動ともいえる。
 人間は、いろいろな欲望を持っている。しかし、生物である人類の根源的な欲求は、子孫を残すことだ。そのために、人を愛して、恋をして、パートナーを定めて、子孫を残すことが、最も重要なことである。もちろん、個人の生活を向上させ、幸せに生きることも、子孫を残す希望の1つに違いない。でも、個人の欲望を抑制し、人類全体に、幸せを分け与えることが、生物本来の形のような気がする。働き蟻は自分のために餌を集めていない。人間は、巨大な脳をもっている。その脳を個人の欲望のために使いつづけると、最終的に生物としての人類は、根源的目的を達成せずに、早々に絶滅する。そうしないための活動の1つとして、ジオパークに向き合うことが大切だと思う。