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6. 岩石販売問題の対策

ジオパーク内、特にジオサイト近傍において地質物品の販売が行われている場合、以下の対応を講じる必要があると考えます。

①  販売している地質物品の在庫を調べる。

②  それらの入手時期、入手先、採取場所について調べる。

③  採取時期を分類する。(ジオパーク認定前か、認定後か)

④  採取場所を分類する。(ジオパーク内か外か、ジオサイト内か外か)

ジオパーク外のものは、仲介業者などを通じて、商店主が入手してもので、その入手先が問題となります。後で述べるように、入手先を調査する必要が生じます。ジオパーク内であれば、ジオサイトから採取されたものか?そうではないか?が問題になります。ジオサイトの岩石は、当該ジオパークが貴重な地質遺産と認定しているので、そこで採取されてものであれば、当然ながら即刻販売停止となります。ジオサイト外であれば、それが貴重な地質遺産ではないこと、国の法律に基づいて、ジオパーク認定以前に採掘が許可された場所であれば、採掘や販売は問題ありません。しかし、販売場所がジオサイト内や近傍であれば、販売可能か十分な検討と、販売継続する場合は丁寧な説明が必要になるでしょう。

ゴミの分別と同様に、販売する地質物品の分別も重要です。

⑤  ジオパーク内で採取されたものであれば、採取場所が貴重な地質遺産に相当していないかを確認する。

この場合、地質遺産の認定が難しい場合があります。むろん、ジオサイトは論外ですが、ジオサイト以外でも、地質遺産としてのポテンシャルがある場所は避けるほうが賢明でしょう。山口県のMine秋吉台ジオパークには巨大な石灰岩からなるカルスト台地があります。この台地は、東西に大きく分けられていて、それぞれ東台・西台と呼ばれています。東台には、日本の地質学の黎明期に紡錘虫(フズリナ)化石による詳細な研究が行われ、地層が大規模に逆転していることが明らかにされ、日本の造山運動の研究の中核となってきました。平成の時代になり、九州大学の佐野・勘米良両先生による研究によって、この石灰岩は、礫状に破壊されていることが判明しました。そして、その礫状にある程度が、東台より西台側が著しいことが示されました。Mine秋吉台ジオパークでは、日本の地質研究の中核となった東台(ここには、国定公園に指定され、複数の特別天然記念物があります)を地質遺産保護区とし、岩石の礫化がすすみ、地層の層序がきちんと成り立たない西台側を国の許可を得た採石が行われている地質遺産活用区としています。両者は本来一連の地質体であり、東台が保存されることで、地球の記憶は十分に保護されています。現在販売されている地質物品の多くは、この開発・活用区のものであり、地質遺産を破壊していることにはならないという説明を行う予定です。この説明に説得力があるかどうかは分かりませんが、地質遺産を自ら定義し、販売して良い地質物品と販売してはいけない地質物品は、UGGp側から示されるものではなく、自ら考えて、説明すべきものであるという判断から、このような対応を考えています。

⑥  ジオパーク外であれば、業者を通じて、児童労働や環境破壊をして採取されたものではないこと、貴重な地質遺産を破壊して採取されたものではないことを、業者を通じて確認する作業を行う。国内業者は、海外の業者から購入しているケースが多いので、その場合は国内業者に任せず、ジオパーク事務局が海外の業者へ手紙をだして、確認を求める。

ジオパークにおいて、売ってはいけない地質物品と売って良い地質物品の区分は、曖昧です。UGGpやJGCに対して、何を売って良いのか?と問いかけることは意味がありません。既に述べたように、例外を除いて、すべての地質物品は売ってはいけません。という答えしか返ってこないからです。では、例外とは何か?その定義も曖昧です。多くの場合、ケースバイケースだからです。地質物品、つまり地質学が関わる物質は、限りなく沢山あります。地質学では、岩石・鉱物・化石だけではなく、水のような液体も扱いますし、火山ガスや空気のような気体も扱います。岩石はダメなら、砂漠の砂は良いのですか?美味しい水の販売はダメなのですか?こんな多様な地質物品のどれを販売禁止にするか?をガイドラインに定めることは困難です。唯一の対応方法は、それぞれのジオパークが、守るべき地質遺産を自らが考え定義し、その判断から利用可能な販売可能な地質物品を導き出し、その論理と論拠を、UGGpやJGCに示し、対話や文書を通じて理解を求める。これ以外に方法は無いように思います。つまり、売ってはいけない地質物品と、売っても構わない地質物品は、ジオパークの理念に沿ってそれぞれのジオパークが自ら考え判断でするのです。そして、その理由と論拠を、UGGpやJGCに説明することが必要です。とても大変な作業ですが、これがジオパークの根幹(ジオパーク理念の中心)に関わる問題である以上、ジオパークの管理運営団体は、必ず対応すべき課題だと認識し、覚悟をもって取り組むべきです。

⑦ 代替商品を開発と提供

これは、Guy Martiniの動画で提案されていました。日本の多くのジオパークでも、さまざまなジオパークグッズが考案され、販売されています。ユニークで創造性に富んだ楽しい物が沢山あります。しかし、岩石を販売している商店主は、そのような代替商品を販売することを拒みはしませんが、代替商品の販売によって得られる収入が、岩石や化石などの地質物品の販売で得られる収入と同等かそれ以上でなければ、地質物品の販売停止に踏み切れないのが実情です。つまり、単に代替商品を開発し提供するのではなく、収入源として有力な代替商品を開発し提供する必要があります。そのためには、各地域は企業などと連携を模索する必要があるかもしれません。また、日本のジオパーク全体で、魅力ある代替商品を開発することで、開発コストや製作コストを削減し、地質物品販売停止への足がかりとすることも検討して欲しいと思います。

⑧  販売業者(商店主)との対話を進める

これも、Guy Martiniの動画で示されていました。これは、各地域のジオパークが腐心している事柄だと思います。その原因は、ジオパークの担当者の多くが市民の生活を守るべき自治体の職員という立場であることに起因しています。市民である商店主から「なぜ売ってはいかないのか?」と問い詰められると、なかなか的確な説明ができないという問題があります。未来とか地球とかの話を持ち出されても、毎日の生活に関わる商売はそう簡単に止められません。地質遺産の重要性について一生懸命説明し、自治体が推進するジオパーク活動になんとか理解が得られたとしても、「話は分かった。でも我が家の生活はどうしてくれるんだ?」と言う声に、返す言葉が見つからないのも事実だと思います。最終的には、岩石販売を取りやめて、ユネスコ世界ジオパークとしての認知度が上がり、インバウンドなどにより集客力が上がり、代替商品などを含めた商売で、それぞれの商店の経済収支がトントンか上向くという納得ある説明がなされないと、了解は得られない気がします。そのような将来見通しを十分に検討し、販売業者との対話をこつことと勧めることが唯一の道かもしれません。また、すぐに販売停止しなくても、売ってはいけない地質物品のランキングに基づいて、徐々に販売数を減らす計画の合意から始めることも最終的な地質物品販売停止に至る道筋の1つです。いずれにしても、茨の道を一歩ずつ進むしかないと思います。

⑨ 販売している岩石を歴史的経緯や文化として説明できないか?検討する。

これは、ジオパークの地質物品販売の例外事項に該当するので、例外的対策と考えてください。Gui Martini氏の動画にありましたフランスの「聖ビンセントの星」(ウミユリの化石) の販売や、糸魚川ユネスコ世界ジオパークのヒスイの例がありますが、歴史的経緯や文化的価値についての詳しい検討と説明が必要なので、あまり簡単な対処法とはいえません。

上記の手順は、個々の地域での対策として提案したものですが、これが適切かどうかは、私自身判断つきかねます。自治体が運営主体となっている日本のジオパークでは、それぞれの地域が独自の基準で地質物品販売停止へのプログラムを策定するのは、大変困難であると同時に、それがユネスコ世界ジオパーク(UGGp)に通用するか定かではありません。そのために、日本ジオパーク委員会(JGC)や日本ジオパークネットワーク(JGN)が、地質物品販売に関する日本独自の基準を定めて、国内のジオパークに周知するとともに、ユネスコ世界ジオパークに日本全体の基準として説明し了解を得る役割を果たして欲しいと考えています。山陰海岸ユネスコ世界ジオパークの岩石販売問題では、ユネスコ世界ジオパーク(UGGp)が相談役として指名しているJGCやJGNは、「ジオパークのガイドラインに従ってください。」とお題目を唱えるのではなく、日本のジオパーク全体のために、そのような役割を担ってしかるべきです。

地質物品の販売禁止のためには、代替商品の開発や、商店主への説明と対話が必要です。