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4. 心を広げるジオパーク活動

これまで、『ジオパークの地質遺産は、未来の子ども達や未来の人類のために、大切なんだ』という話を書いてきました。それでは、その地質遺産を保存して、残せばそれでいいのか?ということになりますが、どうもそうではありません。ジオパークの大切な仕事には、地質遺産の保全・保存のほかに、価値の伝達がある。地質遺産が残されても、その価値や使い道を知らなければ、未来の子ども達や子孫のために役には立たないからです。

この記事の1つ前の記事で、地質遺産の価値について、述べました。ジオパークに認定された地質遺産はそれぞれに固有の価値はあるが、日本全体で価値を見直し、変動帯の地質記録全体として捉え直すと、価値はもっと大きなものになります。同じように、世界全体で価値を見直し、地球の変動、環境変遷といったグローバルな理解で捉え直すと、その価値は計り知れないものになるでしょう。

ジオパーク活動の重要な目的の1つに、『心を広げる』ことがあります。家庭や学校や職場で起こる様々な日常から一歩離れて、ジオパークの地質遺産に触れることで、大地の息吹を感じることができますし、一人の人生では知ることの出来ない長い時間の流れに感動することもできます。1つのジオパークから日本全体のジオパークに目を向けると、日本全体が何億年もの間活動を続け、形成してきた日本の大地の魅力に触れることができるでしょう。海外旅行やインターネットで、海外のジオパークの地質遺産に触れることで、地球は内部からのエネルギーを元に、様々な姿形を魅せていることが分かります。

この『心を広げる』というのは、単に地質遺産についてだけの話ではありません。ジオパークでは、文化や生態系、少数民族の問題や地球温暖化などの環境問題を扱うように提言しています。つまり、ジオパークは、観光客が増加し、地域が潤ったり、元気になったりといった、地域創生とは次元の異なる活動であることが分かります。地域の地質遺産は、世界へ心を広げるためのきっかけに過ぎません。そこの価値にしがみつき、留まっていては、真の意味のジオパーク活動には繋がりません。

地球は46億年の歩みを続け、まだしばらくは存在続けるでしょう。現生人類(ホモサピエンス)は、地質学的にはごく最近の約30〜20万年前にアフリカで誕生したと言われています。人類は、大脳新皮質が発達し、そこで快楽物質ドーパミンを発生させることが出来たため、文化を発展させ、化石燃料の燃焼や核実験などで、地球環境をどんどん悪化させています。さらに、産業革命前(1750年)に7.3億人だった人口は、現在ほぼ10倍の約80億人に達しようとしています。地球温暖化が激しくなり、動物や植物には多くの絶滅危惧種が存在しています。地球史上には、これまで5回の大量絶滅があり、もはや第6の大量絶滅が始まっているとさえ言われています。人間が地球環境に大きな影響を与えてきた時期を、人新世と呼び、様々な議論がなされているところです。

現在、国連がSDGsを唱えたり、地球温暖化に対して世界が協調して活動しているのには、上述のような背景があります。世界の破滅が近づいている今、私たちは何かをしなくてはいけません。そうした活動の1つが、ジオパークです。家庭のような小さな集団で収入が増えるのは大切なことです。地域の自治体や1つの国の収入が増え、人口が増えるのも大切です。でも、小さな個別の集団の利益を追求し、個々の脳内でドーバピンが増えても、子ども達や人類の子孫の未来は、良くはならないのです。

SDGsの基本理念は、「誰一人取り残さない」です。この言葉に賛成する人は沢山いるでしょう。でも、『そのために貴方の収入は減りますよ。』と言われたら、猛反対するでしょう。でも、世界を統括する国連は、ユネスコは、そのような立場を取る訳にはいかないのです。当然、ジオパークは、そのような立場と理念で運営されています。もし貴方がジオパークについて語り、ジオパークの活動をするのであれば、1つの地域ではなく、心を世界に広げる必要があります。

ジオパークの重要な活動の1つに『教育』があります。ジオパーク教育において、『地元に花崗岩という岩石があります。マグマの活動で出来た石で、地球のダイナミックな活動の証拠なんですよ。覚えておきましょうね』と教えていませんか?もちろん、間違いではありません。でも大切なのはその先です。地球は1つのシステムで出来ていて、この岩石は地球のシステムの活動の1つです。地球はいつも、変化していて、活動しています。私たち人間は、その恩恵を受けて、食べ物を食べたり、家の中で暖かく過ごすことができています。でも、地球全体をみたら、そうでない人たちも沢山います。また、私たちが、暖かい家に住み、沢山の食べ物を得ることで、地球環境はどんどん悪くなって、その影響で病気になってしまう人も沢山います。今のままでは、貴方が大人になり子どもができ、さらにその子孫が暮らす頃には、地球上に人間や生物が暮らす場所がなくなるんですよ。どうしたら良いと思いますか?」これは一例ですが、是非未来の話を、世界中の話をしてください。それぞれの地域のジオパークやジオサイトは、グローバルな問題へ誘う入り口にすぎません。

大人の人たちは、ジオパーク活動を行う意味、地質遺産が持つ意味をそれぞれが真剣に考えましょう。そして、地域の地質遺産を使って、子ども達の心を広げる手伝いをしてあげましょう。そうすれば、子ども達が、その子ども達へ、さらにその子孫へ伝えてくれるに違いありません。ジオパーク活動は、地球全体を考えて、何世代にも伝えて行く、息の長い活動なのです。