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6. ジオパークの名前や言葉に込められた呪

夢枕獏の小説「陰陽師」には、『呪』という言葉が頻繁に現れてきます。そして、「名前はこの世で1番短い呪」と説明されています。『呪』とは形のないものを言葉で縛ることらしい。何かに名前がついたとたんに、私たちの心(あるいは脳)は、その言葉が持つイメージで縛られてします。「びっこ」とか「かたわ」といった呼び名が忌避され、最近使わないようにしているのは、この『呪』に関わっています。人間は、言葉でものを考え、心にある感情をわき上がらせます。言葉を操っているようでいて、同時に言葉に操られている存在でもあります。『呪』の概念も、英語で考えるともっと分かりやすいかもしれません。私は、『呪』の概念に最適な英語は「The power Of  A Name」だと思っています。この英語は、アダムが神に命じられて動物に名前をつけたことに由来しているようです。名前が持つ力が、『呪』と理解すれば、分かりやすいですね。陰陽師では『呪』を名前そのものとして扱っていますが、以下の文章では『呪』をある種の機能(power)として扱い、名前以外に言葉にも適用しています。

ジオパークにおいても色々な言葉が使われています。これまで議論されてきた「地質遺産」はその典型です。日本人は遺産という言葉のイメージで縛られるし、英語圏の人々は heritageという言葉で縛られます。でも、本当に遺産だったり、heritegeなのでしょうか?この言葉による『呪』によって、日本の地層や岩石はその価値以上に奉られているような気がします。もちろん「ジオパーク」という名前にも『呪』があります。 以前は「ジオパークは、ジオとパークで地質の公園なんです」とか説明され、中国のジオパークは実際に「地质公园」(簡体字)なのです。それなのに、ユネスコ世界ジオパークでは最近、地質公園と呼ばないように指示していいます。本当に意味を変えるなら、言葉を変えなければいけません。私たちは、名前の『呪』にしばられているのですから。

「地質遺産をたたえ、持続可能な地域社会をつくろう」、ユネスコ世界ジオパークのパフレットにはそう書いてあります。この言葉を読んだら、私も自分の地域の地層や岩石を褒め称え、客を集めて大もうけをして、地域にお金を一杯あつめて、持続可能な社会を作るため、思いっきりがんばります。でも、本当にそうでしょうか?この言葉に『呪』をかけられて、ジオパーク本来の役割を忘れてしまいそうです。現在の地球は、以前に比べて社会的に小さくなりました。1つの国の問題は、他の国の問題へ必ず波及します。ウクライナの戦争がそれを明瞭に物語っています。国だけではなく、地域も同じです。人口の問題や経済の問題は、1つの地域で解決するほど単純ではありません。そう考えると、持続可能な地域社会を作ることは、その地域だけでは出来ない話です。日本全体の経済が豊かにならないといけませんし、世界経済全体も潤っていなければなりません。そのためには、人口増加が今のままで良いのでしょうか?二酸化炭素等を原因とする地球温暖化で地球環境が悪化して、食料などが不足すれば、世界経済から日本経済、地域から家庭まで影響を受けるのです。もっと詳しく書くと、それだけで長文になりますが、明瞭なことは、持続可能な地域社会を作るためには、地球全体が持続可能な社会にならなければならないということです。したがって、ジオパークは世界全体、地球全体が、持続可能な社会を目指しています。それ以外に、持続可能な地域社会は生まれないと信じてください。

「ジオパークは、一筆描きでぐるりと囲った、閉じた地域でなければならない。」とされています。この言葉の『呪』にも縛られています。確かにジオパークは限られた空間で運営されます。しかし、これまで述べてきたように、心のベクトルは、外に向けられなければならないのです。「心をひろげる」ことをせず、内向きに活動をしているのは、閉じた地域という言葉の『呪』でしょうか?いえいえ、「心を閉じて」、狭い集団の利益を追求することで、地域の正義のため、脳にドーパミンが沢山出ているせいです。ドーパミンを出している大脳新皮質は、もっと他の働きもできるはずです。そう!地域のため、ひいては世界のため、「心をひらいた」活動を展開しましょう。少しずつですが、遠い未来には、現在想定されるより、すこしだけ、明るい未来が、子ども達や子孫のために残されるはずです。

最後に、一言書き添えます。名前や言葉がもつ『呪』については、ジオパークに限らず、日常の色々な場面で気をつけておくと、いろいろな発見があると思います。気にしておいていただければ、きっと貴方の日々の幸せに役立ちます。