想いを巡らせ、曲を繋いでいくという事
【MORE THAN BLUEという曲をカバーをした経緯】
こんにちは。
世界の色んな場所でライブ活動をしている二人組・KAO=S(※カオスと読みます)のリーダー山切修二です。
前回のnoteでは、quaffという10年以上前に解散した日本のバンドの楽曲【MORE THAN BLUE】との出会いと、カバーをしたいと思った経緯について書きました。
それは本当に不思議な縁でした。以下の記事でお読みください。
前回、記事を書いた時は、カバーのアレンジを考える前でした。
今回は、カバーするに当たっての多少音楽的な事や、想いについて書きたいと思います。
【原曲の分析】
quaffの原曲はこちらです。
お聴きの通り完成度は高いです。
冒頭からほぼ貫かれてる美しいギターの単音リフ、
リードヴォーカルの誠也(SEIYA)さんの憂いある澄んだ声で歌われるメロディの良さ、それに絡んでくる浮世弥(UKISEMI)さんのインパクトの強い独特な歌い回し、そして掛け声やリズムループ、厚いコーラスなど、、個性的な要素のMIXのさせ方が非常に巧みな名曲です。
更に、歌詞は受け取ってから知ったのですが、一括りにはできない愛や嘘、すれ違う感情や想いの描写に、個人的に凄く共感しました。
浮世弥さんの言葉の選び方も卓越しており、
例えば、サビに登場する「ひとよのよに♪」という歌詞は、
「人世の夜に」であり「一夜の世に」でもあるのです。↓
この歌詞はしっかり伝えたいので、KAO=SバージョンのMVは必ずリリックを載せようと決めました。
【アレンジ:キー決めと歌パート分け】
原曲では二人のシンガーが歌ってるので、当然KAO=Sのカバーバージョンも、川渕かおりと僕で歌い分けるイメージはありました。
KAO=Sはかおりがリードシンガーを務める形でやってきたので、最初は誠也さんのパートを全てかおりが歌って、僕が浮世弥さんパートを歌う形を想定してました。
しかしオリジナルのキーでは、リードヴォーカルパート全てをかおりが歌うには低すぎるので、曲全体のキーを上げることも考えました。
試しに原曲キーのC#mから1音あげてギターで弾いてかおりに歌ってもらったところ、それはそれで彼女の声が活きた良い感じにはなったのですが、冒頭のギターイントロが1音上がってしまうと、印象が変わり過ぎて、もう同じ曲には聴こえませんでした。
どうしても、ドイツで初めて聴いた時に最初に惹かれたのはC#mキーのギターフレーズだったので、ここを変えてしまうと感情移入ができません。
イントロの印象はもの凄く大事なのです。
結局、原曲と同じキーで進めることにしました。
そうなると、川渕かおりの声域がピッタリハマるのは、サビのリードボーカルパート、そしてそれ以外のパートの上のハモリか、或いは1オクターブ上のメロディなので、それらは全部歌ってもらいました。
故に、誠也さんのリードパートの殆どと、浮世弥さんの独特なパートの両方を僕が歌う事になりました。
誠也さんの地声のトップノートは多分僕と同じくらいで、原曲のキーは僕には合いました。たまたま僕の声は、「エ」の母音の響きが誠也さんとかなり似ていて、自分なりの解釈の歌唱で印象を損ねずにやれたと感じてます。
【アレンジ:浮世弥パートとコーラス】
オリジナルの歌唱において、秀逸なメロディとコーラスの合間でタダならぬ存在感を放っている浮世弥さんの独特な歌い方のパート。
僕がトライするにあたり、最初はかなり似せる方向で歌ってみましたが、、
そのデモを聴いた全ての人から不評でした。
やはり、僕は浮世弥にはなれませんでした。
なので、自分なりの柔らかいトーンの声でリズムを強調して歌ってみたところ、だいぶいい感じにはなりました。
しかし、レコーディングではもう一味欲しくなりました。
と言うのも、Aメロの時点で川渕かおりの柔らかいファルセットの高音域も加わって優しい感じになってたので、その後の浮世弥パートは、逆に低い音域をもっと強調してムードを変えたいと思い、僕の声で更に1オクターブ下で浮世弥パートを歌って重ねてみました。
これで、オリジナルの浮世弥パートとはまた違う意味で良い感じになったので、そのまま採用しました。
今回ボーカルアレンジをしていて本当に楽しかったのは、二人の声域を駆使して、曲をカラフルにする作業でした。
原曲のサビは、おそらく誠也さんの一人多重コーラスで3声くらいがブレンドされていたので、この部分はメインパートをかおりとユニゾンで歌って、下のハモリは僕が歌って、上のハモリをかおりが歌うことで5声で混ぜました。
元々、僕の高音域とかおりの中高音域は非常に似ていて、ライブでどちらが歌っているか分からないと言われるくらいなので、MORE THAN BLUEにおける我々二人の声ブレンドは非常に上手くいったと思います。
【アレンジ : ポップさの強調と入れたい音】
原曲で最初から最後まで貫いている素晴らしいギターフレーズは、カバーではイントロとアウトロの役割のみにしてストーリーをつける事にしました。
歌詞が儚い分、アレンジはポップにしたく、二番以降はシンセサイザーを入れることにしました。
シンセのガイドのメロディは自分で用意して、プログラミングは、友人の曽根裕貴くん(SONE MUSIC)に任せました。ギターパートは、僕だけでなく彼もかなり弾いています。素晴らしいアレンジをしてくれました。
ベースも裕貴くんが入れてくれたのですが、2022/11/29のTOKYO 和 CHAOSのショウでこの曲を初演奏した際に、親友の神田智にベースを弾いてもらったら素晴らしかったので、レコーディングもそのままお願いしました。
時代もありますが、原曲はラストが少し長いと感じたので、4分台に収めつつ、二番サビの後の展開はアレンジして新しいコード進行にして、別メロディのパートを加えました。歌詞を削ったりするなんて事は絶対にあってはならないので、このパート8小節の中で、新しいメロディで歌詞を以下の配分にして、かおりと僕で歌い分ける形のアレンジにしました。
陽は登り また落ちて (また落ちて)
その中で この声が (この声が)
この歌が この愛が (この愛が)
遠くまで君に届くまで
サビのリフレインは削るのはありだとは思うのですが、重要なパートを削るのはリスペクトを欠く行為と思うので、ここが男女ツインボーカルのKAO=Sならではのアレンジで上手くまとめることができて良かったです。
そして最後に、このカバーのレコーディングもう一人加わって欲しい人物がいました。前回のnoteで書きましたが、quaffのリーダーであるマキトさんに繋いでくれたのは、和太鼓師 広純です。彼自身がquaffと同時期にバンドで切磋琢磨し合っていたので、この曲の再生させるにあたり、音源の中に彼の声や音を少しでも入れたいと思っていました。
原曲には終始ブレイクビーツ的なリズムループが入ってるので、このパターンを和太鼓のリムショットで再現してもらい、サビの裏リズムとして加えました。
更に、原曲のように、サビと二番Aメロ裏に入れた「Ha!Ha!」という掛け声の一つも彼にお願いしました。これらによって、彼の魂も曲に入れることができたと思ってます。
【KAO=SのカバーバージョンとMV】
紆余曲折を経て完成したKAO=Sバージョンの「MORE THAN BLUE」。
配信リリース用のジャケットは青空のイメージにしたく、昨年ライブの後に寄ったスペインのシッチェスビーチで撮った写真をモチーフにしました。
2/14に配信リリースしました。各配信ストアでお聴きになれます。
ミュージックビデオも作りました。
KAO=SのMVは僕は出ないのが多かったのですが、流石にここまで歌ったので、歌う男女と歌詞のテーマをリンクさせたシンプルなものにしました。
ビデオのイメージのみを伝え、撮影・編集。監督は宮園博之さんにお任せしました。素晴らしい仕上がりに感謝しています。
モノクロバージョンもあります。原曲のMVがモノクロだったので、イメージ的にもこちらとリンクしてるかもしれませんね。
【想いを巡らせ、曲を繋いでいく事】
楽曲そのものの良さはもちろん、曲との出会い方も、その後の縁のつながり方も含め、MORE THAN BLUEは、自分の音楽人生の中で携わった曲の中でも特に印象深い曲となりました。
特に歌詞は、今いろいろ日々の中で感じている事に凄くリンクしていて、昨年偶然ドイツで聴いた時に”なんとなく”琴線に触れた感覚が、カバーすることで自分の中で輪郭がはっきりしていったような、そんな不思議な気持ちです。
単なるカバー企画というのではないのです。
誇大解釈ではないと思うのですが、10年以上前にあるインディーバンドが情熱を持って活動し、いろんな障壁や葛藤に直面しながらも、曲に込め残した想いというものが、時空と場所を超えて、同じような場面を何度も経験してまだ音楽を続けている自分に入ってきたという事に、もの凄くシンパシーを感じるのです。
遠くまで、誰かに届くように、本気で曲に込めた想いはずっと放たれていて、
多分、ミュージシャンはその不確かな事に情熱を注ぐ生き物、
そういうものなのでしょう。
僕もそうです。
今もってヒット曲があるわけではありませんが、曲が力を持って人に訴えかけているとわかる瞬間の美しさを知ってるから、いまだに続けているのでしょう。
だから、この曲に出会えたこと、歌い繋ぐ立場に至れた事に感謝しています。
たった今はリリースしたばかりなので、DIYミュージシャンの時代らしく、この曲を広める為のこの時代ならではのやり方を色々リサーチして実行していこうという段階です。
何度も自分達のオリジナル曲で経験してきたのですが、いい曲を良い歌唱と演奏で目の前でやれば、どこの国だろうと一瞬でお客さんは引き込まれてきます。
しかし、その曲を本気で、ビジネスとして成立するように世界中に広げるとなると、それはレコーディングしたり演奏したりするのとは全く違う分野の作業です。しかし、そこも含めてDIYでやるのが今のミュージシャンの必須項目です。
実は今年の一月に、すでにMORE THAN BLUEをサウジアラビアのリヤドで演奏してます。
当然誰もこの曲を知るはずもないのですが、客席はすぐ楽曲に引き込まれ、一番ノリノリで反応して、終演後もお客さんから、どこで聴けるのか?と訊かれました。
こういった好反応からすぐに楽曲やアーティスト認知に繋げられる導線設計こそ、今年の弊社の最重要課題です。
僕らが、偶々ドイツでこの曲に出会ったのは、quaffの解散後も曲を愛していた人が外で流していたからです。
それが実際に新たなストーリーや、ご縁や、国内外問わず人の心を盛り上げる場面を作ってるのですから、その力を信じて、遠くまで、誰かに届くように、この曲を繋いでいきたいと思います。
最後に、浮世弥さんによるMORE THAN BLUEの歌詞をテキストで貼っておきます。
⻑い道を行く 果てなきこの道を
息を休めては 小さく呟くだけ
何故に僕は君の手を 優しく握るの
何故に君は僕の嘘 全て許したの
歩み行き振り返る二人は 繰り返す痛みを知っている
満たされぬ心の奥 愛に成れたら
誘う手よ 有る限りの花 人世の夜にただ咲いていて
誘う手よ 今はありのまま 百の星を眺めたいだけ
永久に結んで 果てまでゆけば
その日のすべて
遠くまで君に届くまで
陽は昇り また落ちて
その中で この声が
この歌が この愛が
遠くまで 君に届くまで
雨は足音を絶えず消して行き
涙の降る心にいつか花は咲くのでしょう
巡りゆく 巡りゆく 日は巡りゆくけれど
忘れない 忘れないよ 眼差しも声も命も
流れ行く水の様に
浮かんでは消えてゆく泡の様に
今も掴めずにいるから 愛に成れたら
誘う手よ 有る限りの花 人世の夜にただ咲いていて
誘う手よ 今はありのまま 百の星を眺めたいだけ
永久に結んで 果てまでゆけば
その日のすべて
遠くまで君に届くまで
陽は昇り また落ちて
その中で この声が
この歌が この愛が
遠くまで 君に届くまで
愛に成れたら
誘う手よ 有る限りの花 人世の夜にただ咲いていて
誘う手よ 今はありのまま 百の星を眺めたいだけ
今も 今でも 咲いていて
遠く 遠くへ 果てまで
永久に結んで 果てまでゆけば
その日のすべて
遠くまで 君に届くまで
山切修二
KAO=Sリーダー
D・I・Oエンターテインメント合同会社 代表社員
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