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魔人屋

どうも、タイタンというお笑い事務所に所属するネコニスズというコンビのヤマゲンと言います。6つ下の俳優と映画監督の双子の弟たちとFUTANOGOという名義で映像を作ったりもしています。
とりあえず、知らんやつがなんやら色々やってます。
まだまだなんかやっていきます。

僕は上京してから行きつけといえるお店がなかった。
大阪の頃は大国町にある、たこ焼き屋に入り浸りまくっていた。
「やまげん、もう自分で焼いて!」と店主でたる元ヤンの姉ちゃんに言われ、たこ焼きをセルフで焼いて食べていた。無名の芸人のサイン色紙でいっぱいになった壁が店主の性格を物語っていて好きだった。
いつも給料日にはそこでまず使うということをしていた。好きなお店。
今はないが、その人とは連絡もとれてるので全然大丈夫。

僕の個人名を覚えてくれているようなお店が東京にはまだなかった。
でも、ここ2、3年でようやく1つ出来た。
そこはバーというか、飲み屋というか、ピアノが置いてあって、常にジャズが流れてて、おしゃれなのかおしゃれじゃないのか、なんとも言えないような落ち着く場所。名前は魔人屋と書いてまんとやと読む。
ここの1番の魅力は店主のポコさん。
おかんと同世代くらい60オーバーでイケイケのポコさん。

土曜日には店でライブを行う。
ポコさんが歌う。
お客さんがギターやらカホンを鳴らして参加する。
音楽で遊んでる感じ。
ポコさんはなんやかんや歌ってくれる。
平日でもラフに一曲歌ってくれる。
ポコさんの歌声は他では例えようのない歌声で、むちゃくちゃうまいとか、むちゃくちゃ声が渋いとかいうことではない気がする。形容詞が見つからない。
この魔人屋のように形容し難い歌声。ただどこか暖かくなるようなそんな感じ。
たまに心の隙間にどっぷり入って涙が流れることがある。

こんな綺麗に書いているが、テーブルにうずくまるようにわんわん泣いた。
皆はこの夜を、エモかった夜と呼ぶ。
自分でもひくくらい泣いた。
多分ひいてる人もいた。
なんかわからんけどひくくらい泣いた。
お酒と雰囲気と歌声に包まれたらびっくりするくらい涙腺ぐちゃぐちゃになった。

ポコさんは僕を度々褒めてくれる。
「げんちゃん本当良い顔してるよ。」
「え、ほんまですか!?男前ですか?」
「男前じゃない。良い顔!俳優もやればいいじゃん!」
「スクリーン映えしそうですか?」
「良いと思うけどね〜」
「男前ってことではないんや」
「男前ではないよ!」
絶対に男前とは言ってくれへんけどえぇ顔やと言うてくれる。
「川谷拓三と同じ系統の顔、良い俳優さんだよ」
僕は知らなかったので調べた。

顔、しぶ。
タイトルいかつ〜。

確かに顔の系列一緒やな、腫れぼったい目元にパクーってなった口。
確かに一緒。

僕は魔人屋の付き出しがいつも楽しみでいっている。
ポコさんの料理、通称ポコ飯はうまい。手間のかかった料理にうねる。
煮物やったり、酢のものやったり、その時その時の旬を取り入れた付き出し。
毎度毎度うまいうまいと食べ、気なったら作り方を聞く。
「なんでこの煮物こんなきれいな色に炊けるん?」
「別で炊いてるんだよ、盛り付けるときに一緒に盛ってるから」
1つの煮物を別々に炊くんほんまダルいから!こういうひと手間がほんまにうまさの秘訣なんやと思う。
ある日の付き出しが枝豆やった。
僕は飲み屋でも枝豆は絶対頼まない。そんなうまいと感じない。
僕はがっかりした。
枝豆やないか、と。
ポコ飯ちゃうがな、これどこでも食えるがなと。
それを察したポコさんが
「適当なの出してないよ!この枝豆ほんとちゃんとしたやつだから食べて!枝付きで茹でてるから全然違うよ!」
食べた。全然違うかった。
この枝豆美味かった。枝付きから湯がく枝豆うまっ!!
余計に普通の居酒屋で枝豆を頼むことはないと思う。

「料理にいつもリアクションくれるね、げんちゃんのそういうとこ好きだよ!」

これは僕はかなりあがるパンチラインだった。
今は過剰に言うてるかもしらん。

この魔人屋はもうすぐ45周年になる。
とてつもながい年月、色んな人に愛され続けている店。
僕みたいなのが語るには恐れ多い店。

来てはる常連さんには何度も出禁を乗り越えて来られてる方も多い。
出禁て言われたら普通来られへんけど、それでも来てまうんが魔人屋なんやと思う。

この前に行ったとき、ちょっとうっといおっさんが隣に座った。
僕は女性と2人で行っていた。
どの会話にも入ってくる。入ってくるんがダルいわけではなく、全部はダルいやん。いいバランスが良いやん。
コロナに対する国の政策とかを語って来た。
話してる感じおっさんはマウント取りたがりおっさんやった。
政治マウントが来た。
僕はおっさんの言う政策に賛同できなかったので、自分の思うことを言った。
おっさんは僕が思ったより詳しかったことにあわてて最後、ホストクラブにお金を払わないとダメだ!!とピンポイント過ぎる政策を言っていた。
政治マウントをコビットシザーズで返した。

次に人生ってなんだと思う?的なことをおっさんが言ってきた。
人生経験マウント!!
僕はわからない。まだまだ旅の途中です。みたいな詩人のようなことを言った。ポエゲン。
人生経験マウントをポエマーシザーズで返そうとした。

それを察したポコさんが、
「やめなよ、嫌がってるじゃん」
とそのおっさんに言った。
「人生は旅だよ!修行!なんでも修行なんだよ!」
とポコさんは続けた。

おっさんは
「じゃこの子たちが俺に絡まれるのも修行だね〜」
と言うと間髪入れず
「何言ってんだよ!嫌なもんは嫌なんだよ!絡むなよ!そんなもん修行でもなんでもないよ!なんで嫌われてるか家帰って考えるのが修行だよ!!はい!おかわり!!」
と持論を語ってすぐおかわりを言う至難の技でおかわりをもらってた。
45年の歳月をかけて磨かれた技。
こういうのをガツンと言ってしまうところに惹かれる。
あと死ぬほど笑った。勧善懲悪すぎた。
水戸黄門。ドクターX。魔人屋ポコさん。
昔にいたら歌舞伎なってたんちゃうか。

おっさんはその時僕と一緒に行った女性に特別給付金でキャバクラに行ったという話をしていた。それもなんでやねん!
結局一杯飲ませちゃって結構かかったよ〜と言っていた。
「いいんですよ!遠慮なく私にも!」と飲み屋ジョークをかました。
おっさんは「負けましたー!!見てるだけで結構です!!」と言うと
「いや、ほな見んな!!わけわからん!!なんで見られなあかんねん!」
とキレッキレのやつを返していた。僕腹ちぎれるくらい笑った。

そのおっさんは別に悪い人ではないが酒を飲むとおそらくかまってほしくなる人なんやと思う。前歯はあんまないけど悪い人やない。なんでディープな酒場に1人は歯ないやつおんねやろ。歯がないのは変や。

これは聞いた話やけど、前にその人が
「もう、俺死のうかな〜」
と言ってる途中くらいでポコさんが
「死ねよ!!言ってくんなそんなこと。死ぬなら勝手にやってくれ!」
と光の速さで言ったらしい。

おっさんはそれでもやってくる。
死ねよと言われても楽しく飲めるってどんな場所なんや。
そんなん言われてもずっと来るってすごい。
30年近く来てるらしい。昔は歯があったんやろうな。

僕がポコさんに
「なんやかんや、ポコさんもあの人のこと大事にしてるんですね」
と言うと。
「してないよ!!嫌いだよ!!」

いや、嫌いなんや。
どういう関係性やねん。
ほんならなんであのおっさんくんねん。
わけわからん。

ポコさんはときおり
「愛してるよ、げんちゃん」
とこそば痒くなるようなたまらん言葉をくれる。

ポコさんは嘘をつかない。
客に「死ねよ!」ともダルかったら「帰れ!」とも言う。
せやからこの言葉はなんか嬉しい。
他人に愛してるよって東京来て初めて言われた。

今はコロナの煽りをうけながらも一人で懸命にお店を守ってる。
僕はこの人のスタンスにビシビシくらっている。
これからも行きます。

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