見出し画像

短歌85

春うらら病院ビルの歯科医院で前の患者が褒められている

求めたい誰かがいない香料のベリーがわたしへと住み着いて

カモミールぱちんと世界が終わったら世界外生命の追悼

白昼夢・早く葉桜になりたくて張り切っている老若男女

朝に弱い天使が朝に弱いことを考慮してくれる週の神様

予報とは打って変わった晴天を受けて急遽行く遠い公園

切り花を抱えた人とやけに会う春の夕日の駅への道で

あの頃のJ-POPカラオケで入れても戻れないからあの頃だった

入院を思い出のように思ってて人は都合よく生きられる苔

いつか各路線に思う人のいて地上ホームに起き抜けの風

自販機に常温の水いきられた数の炎でいつか焼かれる

あなたが目当て 桜が目当て リプライの代わりにまず買いに行く便箋

したい人したくない人に等しく多すぎる転職の広告

砂嵐の音響かせた隣人が慌てて音量を下げている

ひかるスワンボート知らない人たちの春の自撮りにたくさん見切れる

前の人のリュックにかまいたちのアクキーゆれてときどきは裏返る

春の画廊あなたはそういう作品としてその椅子で眠りについて

ハーブティーの匂いあたしに染み付いてこれから勝手に咲けるだろうか

それからもわたしは穏やかに暮らした。区別のつかないシーブリーズ

ずっとずっと最終的な特別にならないままに出会い続ける

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?