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ビル   2022/3/9

ビルが立っている
夕焼けを背に
気をつけをして

ビルが立っている
いつ見ても
同じ姿勢で

ビルにはビルの思いがあって
ああして今日も立っているのだろうが
あんなふうに動かないでいることが
ビルのビルたるゆえんであれば
いったい何が楽しくて
ビルはビルをやっているのだろう

さぞつらかろうに
一日くらいならまだしも
何年も何十年も
直立不動でいるなんて

もう心がないのだろうか
あまりにじっとしすぎたせいで
心が石みたいに硬くなり
もう何も感じないのだろうか

そうか
ビルは石なのか
だとしたら形からして墓石(ぼせき)だろう
直方体で
ひょろ長くって
林立して
そうだ
まさに墓石だ

ほら、みんな飲まれていく
買い物客や勤め人
着飾ったガイコツたちが
墓石の中へ
かたや出てくる人もいる
ということはあれはゾンビか
なんてホラーな世界だろう
ゾンビとガイコツが交差する
ポキポキと骨の音たて

それを見ているのは僕
向かいのビルのオフィスから
僕もじっと固まったまま
机にずっと張りついたまま
もう何年たつだろう
この席に座り続けて
いつか新しい風が吹くのを待ち続けて
けれどもそんな風の吹くはずもなく
昨日と同じ今日が過ぎ
今日と同じ明日が来る

ビルが言う

おまえにはおまえの思いがあって
そうやって今も座っているんだろうが
いったい何が楽しくて
おまえはおまえをやっているんだ

夕焼けが消えていく
今日も今日が消えていく
いたたまれずに席を立つ
ポキポキと骨が鳴った

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