宝石   2021/8/28

わたしは直径5メートル

大きな大きな岩でした

山の上に居すわって
我がもの顔でいばっていました

でも、あるとき崖から転げ落ち
パカーンと割れて
だいぶ小さくなりました

その後も川を流されて
あれよあれよと削られて
もっと小さくなりました

今は直径5センチくらい
とある川原で暮らしています

ここは石ころだらけです
わたしはそのひとつにすぎません

あなたがわたしを探しても
たぶん見つからないでしょう

わたしが突然いなくなっても
誰も気づかないでしょう

わたしは無価値な存在です
何のとりえもありません

できれば宝石に生まれたかったです
いつもみんなにちやほやされて
なくなったら大騒ぎになるような

ある日、川原に子供たちがきて
わいわい遊び始めました

何を思ってか石を拾って
つぎつぎ川に投げだしました

なんてひどいことをするんでしょう
おそろしさに震えていると

ついに誰かがわたしを拾い

「すごい、この石
 めちゃ平べったい」

確かにわたしは平べったい
それのどこがすごいのか

戸惑うわたしを振りかぶり
その子は思いっきり投げました

川に向かって
水平に

あっという間に着水し

沈む

と思ったそのときでした

奇跡がおきました

なんと、わたしは跳ねたのです
水の上をポンポンと

こんなわたしが飛べるとは

わたしはその後も跳ねつづけ
どうでしょう
10回以上は飛びました

宝石のみなさん
飛んだこと、ありますか

わたしは飛びましたよ

子供たちのおかげで
川の上を
風のように
蝶のように

最後の最後に沈むとき
あの子の顔が見えました

「やったぁ、新記録」

うれしそうに笑った顔が
宝石みたいに見えました

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