盛り上がりが足りないゾ!
さあ帰ろう。
タイムカード切って更衣室で着替えて、駐車場に向かう。地下1階の職員通用口へ長めの廊下を歩く。15m前には男性職員2人と女性職員1人が連れ立っている。部署が違う前の3人を僕は知らない。特に話すことはない。距離を保ったまま通用口へ向かう。通用口を出たら地下のバックヤードから職員駐車場へ向かう坂道がふた手に分かれる。
しゃべりながら歩く3人組よりも黙って歩く1人の方が速いに決まっている。廊下を歩いていたときは15m先だったが、バックヤードに出て坂道に入る時点では5mに迫っていた。
よし、ちょっと横幅の空間が広くなったタイミングで追い抜こう。
「お疲れー。じゃあね」
「お疲れっす」
え、3人同じ方向にいかないの?
男性2人は左の上り坂へ、女性1人は右の下り坂へ。
しまった、僕は女性と同じ方の坂道に進まないといけない。
職員駐車場は職場周辺の何箇所かに分散配置されている。前の女性職員と同じ方向に、街灯のない下り坂を下らないと、自分のとめている駐車場まで行けない。
追い抜こうと2mまで女性職員に迫っていたが、女性だけ街灯のない下り坂方面に進んだので、僕が暗闇の中女性職員の後ろを図らずも追従する格好になった。
やばいやばい。
…いや、別にやばくない。
ただ坂を下って駐車場に行くだけだから。暗闇ということを除けば別に普通のことだ。たまたま前に同じ職場の別部署の知らない女性職員が歩いているだけ。なんなら、おそらく女性職員だけど、別に女性職員とか思わなくていいんだ本来。特に関わりのないいち職員が前を歩いてるだけ。そうだろ。このまま家の前まで歩くわけではない。数10m先の駐車場までだ。やばくないでしょべつに。
2m前の女性職員が3m、4m、離れていく。
下り坂の重力に負けてるのか?脚の力弱いのか?
5m、8m、
そいつは走り出した。
だ!
だれ!
だれが!
だれがおそおうと思うねん!
(「盛り上がりが足りない!」風)