諺
アイロンはまあまあ危ない。あいつは見た目に涼しい顔をしているくせに、表面内部は恐ろしく熱を帯びている。人(もの)は見かけに拠らずだ。
僕はアイロンは初めてではない。自分のワイシャツや子どもの給食当番かっぽう着なんかを綺麗に伸ばしてきた。しかしさっき長女の制服の一部を溶かした。初めてのアイロンの失敗だ。覆水盆に返らずだ。
僕は明日、制服屋さんに長女の制服を注文しに行く。もちろん、支払いは僕のお小遣いの範囲だ。立つ鳥跡を濁さずだ。
ちなみに制服を溶かす前、見た目に涼しい顔をしてるアイロンの裏面を、熱くなってるのかを確かめようと、スッと右手の指で撫でた。「あっっつ!」既に熱々の裏面をさわるなどそんなことをわざわざするもんじゃない。だのに、僕はさわった。藪をつついて蛇を出すだ。飛んで火に入る夏の虫だ。放火犯が野次馬に混じっているだ。
すぐに流水で冷やしたけど、世の中因果応報が成立するなら、僕はもう十分報いを受けた。人事を尽くして天命を待つだ。