時計のない駅のホーム
駅のホームに時計がない。
ほんまか?
ちゃんと探したんか?
ない。
帰宅のために乗っている。
目的地に行くための乗り継ぎだ。
一旦下車して、次の電車まで25分待つ。
待ち合い室はない。
カラッと晴れた昼下がりの寒風は容赦ない。
それでも座ってすることはある。
ベンチに座って用事をしながら気を紛らして待つ。
不思議なもんで、寒いのに眠い。
うたた寝しそうに目を閉じるけど、
これは吹雪の中の
「寝るなー!死にたいのかー!!」
か?
違う。
午後の陽光に刺されて眠いだけで、そこにたまたま大寒前後の寒風が上乗せされてるだけや。
だから寒くて眠いんや。
日常生活には本来はない身体状況の形容の組み合わせや。寒くて眠い。
寒くて眠いけど死ぬわけじゃない。
時計を探す。
時計がない。
カバンからスマホを出して時間を見る。
まだ5分ちょっとしか経ってへん。
うたた寝しそうに腕組みして俯いてる状態から時間を確認するためには、膝上のカバンからスマホを出して画面を見る工程より、顔を上げてホームの時計を見るだけの方が工程が少ない。眠い時には省エネだ。
なのに時計がホームにない。
駅に時計がないってあるか?
眠いから、見渡し方が不十分やったのか?
もっと身を乗り出して、顔をしっかり動かして見渡したら見えたのか?
いや、そもそも時計がないんだよ。
工事中のシートに隠されて見えないのか?
いや、工事はしていない。
そもそも時計がないんだ。
この駅のホームには時計がないんだよ。
この駅のホームに時計はない。
外にあるのか?
いや、乗り継ぎを待ってるんだから外に出るわけないだろ。
この駅は時計のない駅だ。
電車が来るまであと11分だ。
よく見ると味のある素敵な駅舎だ。