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クララ殺し

この記事の目的

 これまで,読書メーターやブクログで読んだ本の感想を残してきました。基本的に,読書メーターでは「ネタバレなし」の感想を残し,ブクログでは「ネタバレあり」で,自分が後で読んでその作品のことを思い出せるようにしています。

 「アガサ・クリスティ―完全攻略〔決定版〕」(霜月蒼。株式会社早川書房。2018年)を読み,改めてアガサ・クリスティーの作品を読みたいと感じたことから,このように,読んだ人に「読みたい。」と思わせるようなブックガイドを書きたいと感じました。そこで,noteを使い,ネタバレなし。読んでいない人に読みたいと思わせるような感想を残していきたいと思っています。

あらすじ(文庫本の裏表紙から)

 ここ最近,奇妙な生き物やアリスという少女が暮らす不思議の国の夢ばかり見ている大学院生の井森建は,ある晩,いつもとは違って緑豊かな山の中でクララと名乗る車椅子の美少女と出会う夢を見る。翌朝,大学に向かった井森は,校門の前で,同じ姿の少女くららに呼び止められる。彼女は何者かから命を脅かされていると訴え,井森に助力を求めた。「アリス殺し」まさかの続編登場

設定

 クララ殺しは,特殊設定ミステリの傑作,アリス殺しの続編です。もっとも,続編といっても,アリス殺しと共通する登場人物は,井森建=蜥蜴のビルだけです。キャラクターは一新されているものの,地球とリンクする夢の世界で,アーヴァタールという記憶を共有する存在がいるという設定は踏襲されています。

世界観

 クララ殺しというタイトルで,車いすの美少女が登場しますが,残念ながらアルプスの少女ハイジの世界の話ではありません。…まぁ,アルプスの少女ハイジには,人語を解する動物やらロボットは登場しませんし,不思議の国のアリスとは世界観が違い過ぎるので,アルプスの少女ハイジの世界での続編は難しかったということでしょうか。

 クララ殺しの世界は,19世紀初頭に活躍したドイツの作家,エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマンの小説の世界=ホフマン宇宙が舞台となります。黄金の壺,くるみ割り人形と鼠の王様,砂男,マドモワゼル・ド・スキュデリといった物語の登場人物が,アーヴァタールとして登場しています。クララというのは,砂男という物語の青年ナターナエルの親友,ロータルの妹であり,くるみ割り人形と鼠の王様にも登場するキャラクターのようです

どんな話?

 クララ殺しは,くららが何者かから命を脅かされてるとして,井森=ビルに助力を求めます。井森は,くららに脅迫状を送ったのが誰か,地球で捜査を捜査をします。結局のところ,くららは何者かに殺害されてしまうのですが,地球とホフマン宇宙で捜査が繰り広げられますが,なかなか,一筋縄ではいきません。ドロッセルマイヤーから捜査を依頼された井森=ビルは,自らも何度も命を狙われながら,真相を目指します。もっとも,井森はともかく,ビルには捜査は荷が重い。そこで,ホフマン宇宙では,怜悧な老嬢,マドモアゼル・ド・スキュデリが,ビルとともに捜査をします。地球上でも,新藤礼都という怜悧な女性が,井森の捜査を手伝います。

感想

 アリス殺しでもそうでしたが,このシリーズの鍵となるのは,アーヴァタールの存在。クララ殺しでも,アーヴァタールの存在を利用したトリックが仕掛けられています。そして,そのトリックの使われ方は,アリス殺しより大幅に複雑になっています。地球上で,くららの死体が見つかるが,ホフマン宇宙ではクララの死体がなかなか見つからない。もしかしたら,クララは生きているのか。そのような疑問が生じたところで,ホフマン宇宙において,ある人物の死体が見つかる。最後にスキュデリが,ホフマン宇宙で登場人物を集め,推理を披露します。

 分かりやすさや衝撃という点ではアリス殺しに劣りますが,トリックの複雑さ,ミステリとしての面白みはアリス殺し以上ともいえ,こちらも傑作といってよいデキだと思います。

最後に 

 クララ殺しの魅力,そしてこのシリーズの魅力の1つが,蜥蜴のビルの存在であり,彼の言動です。間抜けで馬鹿正直な存在でありながら,そのセリフには考えさせられるものもあり,単なるバカとも思えない存在となっています。スキュデリも,真相を解明する場面で,「ビルには随分助けられました。犯人の正体が解明できた功績の半分以上はビルのものです。」といっています。ビルとスキュデリの掛け合いは,ちょっとした漫才のように感じる場面も多々あります。最後は,ビルのこのセリフで閉めたいと思います。

 「僕だって,立派な爬虫さ」

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