3月の推奨香木は橘つながりの二種です♪

「沈水香木って、水に浸かっているものですか?」とか、「土に埋まっているものでしょうか?」などとご質問を受けることがあります。

沈水香木(以下、沈香)が発見されて採集される現場に立ち会った経験はありません(近年にインドネシアのカリマンタンと言われる地域から運び出された沈香をバリ島に運んでもらって確認しに行ったことはありましたが…)
から詳細は存じ上げないのですが、「どちらのケースも有り得るけれど一般的ではない」と言えるのではないかと思います。

カリマンタン20kg#1

上の例は2014年にカリマンタンから送信された画像で、山中から運び出された際に撮影されたものです。このような20㎏を超える丸太状の沈香が発見されるのは極めて稀で、一般的には、朽ちた沈香樹の内部に点在する樹脂化した塊を取り出す(鉈や鑿で切ったり削ったりして)ことが多かったと思われます。

でも、明らかに土に埋もれて永い歳月を経たと思われる沈香も稀に存在します。
土に触れていた部分は水分に浸食されて朽ちていて、独特の風合いを示し、埋もれていた場所が黒土なら黒っぽく、赤土なら赤茶色に見えます。
一旦は完全に樹脂化を遂げて上質の沈香になり、後に何らかの理由で土に埋もれてしまった場合、外側を削り落とした内部には樹脂化した当時のままの姿が隠れており、永い歳月を経て熟成されたかのように思える落ち着いた香気を控え目に放ってくれます。
そして大抵の場合、朽ちた部分も、加熱すれば内部と同じ「匂いの筋」を発揮してくれます。むしろ朽ちた部分を加熱する方が、より木所の特徴を明確に捉え易いかも知れません。

そんな珍しい沈香を、今月の推奨香木に選定してみました。
産地はベトナムと思われる、赤土に染まった沈香です。

昔の袖の香①

節のような組織が突出しており、その内側は木目が乱れて截香し辛いことが予想されます

昔の袖の香②

断面が薄茶色に見える部分は朽ちているとお考え下さい
両者を炷き比べることが、この香木ならではの愉しみになります

沈香がこのような姿を見せてくれるように変化を遂げるまでに、一体どれほどの歳月が経過したのでしょうか?
時の流れの不思議さに思いを馳せつつ、穏やかなのに力強くもあるもののふの香気をご堪能下さるようお奨め申し上げます。
次の和歌を証歌として、『仮銘 昔の袖の香』とさせていただきました。

橘のにほふあたりのうたたねは夢も昔の袖の香ぞする
                    (俊成卿女)(新古今和歌集)

なお、もう一種の推奨香木は御家流香道に用いられる佐曾羅『仮銘 軒の橘』で、数十年前、まだインド政府が刻印を打って輸出を許可していた時代の最上質の赤手の白檀です。

軒の橘①
方や沈香、方や白檀…それらに共通する香気・味が何処かに感じられるのか否か、ぜひ目を閉じて聞き比べていただければ…とお奨めします。





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