12月の推奨香木:徳用版シリーズNo.4「最上タニ沈香小割」

現代では入手が極めて困難となっている「木所(六国)の特徴を明確に具えている上質な香木」を、その都度テーマを設定して月ごとに紹介させていただいている推奨香木は、おかげ様で毎回ご好評を博しており、嬉しい限りと存じます。

そろそろ緑油伽羅の登場か?と期待して下さる声が聞こえており、その気になっていたのですが、実は今回は隔月に案内している徳用版シリーズの順番なのでした。

前回の「最上シャム沈香小爪」は、全て沈水する、いわゆる「シズミ」クラスの最上質の古木ばかりで、いかにもタイ産の沈香らしい香気が紛れもない典型的な真南蛮の特徴を表してくれる、超お徳用でした。

今回の徳用版も、負けず劣らずの品質と木所の特徴を表す香気とを具えた「シズミ」クラスを選びました。
やはり数十年より以前に京都に輸入されていたタニ沈香(産地はインドネシアのカリマンタン)です。
どこがお徳用かと申しますと、「角割を作った際の割り落とし」(すなわち小割)という不揃いな小片をご自分で截香(せっこう=聞香に適するように挽いたり割ったりして調えること)して戴くスタイルを採る分、価格を三分の一以下に設定している点です。
(角割とは、主に茶道に供する目的で一木の塊を厚さ約1.5㎝の輪切りにした上で約0.2㎝の幅で短冊状に割り、更に約1.2㎝に切ったものです)

写真は、小割の一例です。

タニ沈香最上シズミ小割①

いかにも古木らしい断面には、組織に沈着した樹脂分がキラキラと光って見え、中には、樹脂分が何らかの理由で滲み出してから再び固まった形跡が見える欠片もあります。

タニ沈香最上シズミ小割②

タニ沈香最上シズミ小割③

(この欠片の実寸は、約1.5㎝×約1.5㎝です)

輪切りに挽いた面を拡大して撮影してみました。
緻密な組織が全面的に樹脂化し、真っ黒に変化している様子が見えます。

タニ沈香最上シズミ小割④

截香の一例です。

タニ沈香最上シズミ小割⑤

(小さい欠片の実寸は、約3㎜角です)

ご参考までに、一部を計量してみました。これ(下の写真)で2gです。
最上シャム沈香小爪と同様、たっぷりとお愉しみいただけます。

タニ沈香最上シズミ小割⑥

ちなみに選別の際に幾つかの欠片を試し聞きしましたが、ほとんどは佐曾羅に該当し、ごく稀に寸門陀羅が混じっています。
カリマンタン産の上質な沈香に特有の「辛」と「酸」とが、凛とした気高さを感じさせてくれます。
「仮銘 さゆりば」、「仮銘 あをば」、「仮銘 霞める空」や「仮銘 秋風」などと聞き比べても全く遜色なく、昔の沈香のレベルの高さを感じさせてくれます。

数十年前は、一度に何キロも角割に加工し、その後に一枚一枚を品質別に数段階に選別していました。根気と集中力とが必要な気が遠くなるような作業でしたが、今となっては奇跡のような贅沢な想い出です。

どうぞ「最上質のタニ沈香」の素晴らしさを味わいつつ、佐曾羅の「匂いの筋」を堪能して下さいます様、推奨申し上げます。

(御家流では佐曾羅に白檀・赤栴檀を用いられることが通例で、いわゆる「沈の佐曾羅」は真南蛮に流用されることが増えているように思われますので、ご注意下さい。)

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