推奨香木『仮銘 散らぬ花』について
もう数年前になりますが、不定期ながらも継続していた推奨香木の分木が、「手が回らなくて…」という当方の身勝手な事情により途絶えてしまいました。その後、代表が交代して徐々に新しい体制の整備が進み、昨年の後半あたりから分木の再開を検討できる状況となりました。
実は途絶える直前に、次回の分木予定(二種類)の紹介文を用意していたのですが「お蔵入り」となっていました。
ようやく、公開できる運びとなりましたので、とりあえず一種の原稿を当時のままコピーして以下に貼り付けます。ご笑覧下さいませ。
なお分木の具体的な予定に関しましては、いずれ香雅堂の公式Facebookページにて告知されますので、ぜひチェックをお願い申し上げます。
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真南蛮らしさを安定して出せる典型的な一例としては『仮銘 白雲』を挙げることができますが、今回は、とても珍しい古木を紹介申し上げます。
(古木とは、昭和時代以前に渡来していたと思われ、しかも採集される以前に樹脂化が進んだ期間が少なくとも数十年以上あったと見受けられる香木のことを指しており、科学的な根拠に基づく表現ではないことを、ご諒承下さいませ。)
一見して“これぞまさしくシャム沈香”と言える「顔」=すなわち肌の色合い・風合いを示していますが、木目が複雑に絡み合って曲がっていて、他に類のない風貌です。
元になった沈香樹のどのような部分が樹脂化したのか、見当が付きません。もはや、化石となる一歩手前のように見えます。
従いまして、截香(せっこう=使い易いように挽いたり割ったりすること)するにも、どこから手を付ければ最善なのか判りませんし、恐らく、3~4mm×4~5mm×1mm等の長四角に截香することは不可能と思われます。
不揃いな小片の状態であっても分木させていただく価値があると判断する理由は、放たれる香気に雑味が殆ど感じられず、いかにも最上質の古木らしい真南蛮の味わい深さを堪能させてくれるからです。
ただ、一般的な「真南蛮らしい真南蛮」とは言えません。むしろ『こんな真南蛮もあるのか!』と認識を検めていただける稀有な例として、相応しいように思えます。
殊に、まるで石のように堅く樹脂化を遂げた部分は、全体から見れば極めて少ない割合ではありますが、適切な火加減を与えてあげると、高い確率で「奇気」を放ちます。
【奇気=すなわち五味に属さない特別な香気で、杏仁(あんにん=杏‐あんず‐の種子の中にある仁‐さね‐を取り出したもの)に似ると伝えられる軽やかでいて芳醇な好ましい香気は、ごく限られた上質の香木しか出せないものです。その正体は、恐らく、銀葉に載せた欠片が適温に加熱されるまでの短い一瞬に、最も低温の段階で最初に揮発する香気だと想像されます。】
他の木所にも共通しますが、樹脂化の密度が高い部分ほど適切な火加減を見つけるのが困難と言えます。この機会に、大昔の真南蛮がどのような立ち方をしてくれるのか、ぜひお試しくださいます様お奨め申し上げます。
古木の風貌と品位の高い香気を放ち続ける様から、仮銘を『散らぬ花』としました。証歌は以下の通りです。
木所 真南蛮
仮銘 散らぬ花
証歌 咲き初めてわが世に散らぬ花ならばあかぬ心のほどは見てまし
(二條院讃岐)(続後拾遺和歌集)
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