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令和2年 司法試験論文答案例 民法

こんにちは、井上絵理子です。民法、心が折れました。先に「日常家事でたらしい」と聞いていたので、若干先入観ありの答案となっております。とりあえず何もみずに六法だけで書いたのですが、・・・ちょっと時間オーバーしました。なので、本番だと、一部書けてない状態で提出するはめになったと思います。もうやだ・・・。

第1 設問1について
 契約①に基づくBの主張として考えられるものとして、アAに対する契約不適合責任に基づく損害賠償請求権(564条、415条1項本文)とCのBに対する残代金債権と相殺する(469条2項1号)旨の主張、イAに対する代金減額請求権の行使(563条1項、562条1項本文)をする抗弁をCに対抗するという主張(468条1項)の二つがある。
1 アの主張の当否
(1) まず、Aに対して契約不適合に基づく損害賠償を請求することができるかについて検討する。
 本件で、AとBは乙建物が特に優れた防音性能を備えた物件であることを契約の内容として乙建物の売買契約を締結している。すなわち、Aは特に優れた防音性能を備えた乙建物をBに引き渡す債務を負っている。そして、実際に引き渡された乙建物は近所に音が漏れ聞こえてしまう、特に優れた防音性能を備えていないものであった。したがって、「債務の本旨に従った履行」(415条1項本文)がない。そして、特に優れた防音性能を乙建物に備えさせるためには別途工事が必要となる。この工事費用および見積りをとるために要した費用がAの債務不履行によって発生した損害といえる(416条1項)。また、Aが乙建物をBに譲渡する前にも同様の騒音トラブルがあったことから、Aは乙建物が上記性能を備えていないことについて知っていた。したがって、Aは本件債務を履行するために防音工事等をすべきであると知っていて本件債務を負担したのであるから、この債務の不履行につき、Aの責めに帰することができない事由があるとはいえない(415条1項ただし書)。
 そして、引き渡された乙建物が特に優れた防音性能を備えていなかったことは、「品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合」に当たる(566条本文)。そのため、Bは目的物の不適合を知ってから1年以内にAに対して乙建物について契約不適合があったことを通知しなければ損害賠償の請求およびイで主張する代金減額請求をすることができない。Bは目的物の契約不適合があったのを知ったのは業者に点検してもらった令和2年10月10日であり、その旨すぐAに通知していることから、損害賠償請求をすることができる。
(2) 次に、BのAに対する損害賠償請求権をもって、CのBに対する残代金債権と相殺することができるかについて検討する。
 CのBに対する残代金債権はAのBに対する残代金債権が債権譲渡されたものである(466条1項本文)。その対抗要件は譲受人Cへの債権譲渡を通知する旨の内容証明郵便(確定日付ある証書)が債務者Bの下へ到達した令和2年7月30日に備わっている。
 そして、BのAに対する損害賠償請求権は令和2年10月10日以降に発生することになる。債務不履行に基づく損害賠償請求権は、債務不履行によって生じた損害の賠償を請求するものであるから、実際にBが工事をし、その費用を支払い、損害が発生していることが必要となるからである。もっとも、本件損害賠償請求権の原因となったのは、対抗要件具備時より前のAの債務不履行によるものであるから、この損害賠償請求権と残代金債権を相殺することはできる(469条2項1号)。
(3) したがって、アの主張は認められる。
2 イの主張の当否
(1) まず、Aに対する代金減額請求が認められるかについて検討する。代金減額請求は、引き渡された目的物が品質に関して契約の内容に適合しないものであるときに認められる(563条1項)。前述のように引き渡された乙建物は契約の内容に適合しない性能しか備えていないものであるため、これにあたる。
 そして、買主は売主に対して相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる(563条1項)。
本件でBはAに対し、防音性能を乙建物に備えさせるための工事を自ら手配するか、工事費用を負担するか選択して履行するよう求めている。
ここで、Bは履行の追完の催告にあたって相当の期間を定めていない。しかし、相当の期間を定めるようもとめた趣旨は、売主が履行の追完をすることができる期間を設けることで、売主に履行のチャンスを与える点にある。また、代金減額請求権は契約の一部解除であるから(563条2項参照)、解除する際に必要とされる催告に相当期間が定められていなくとも、相当期間経過後に解除が可能となることとパラレルに考えるべきである。したがって、履行の追完の催告に相当の期間が定められていなかったとしても、563条1項にいう履行の追完の催告がされたといえる。
したがって、本件でも履行の追完の催告がされている。また、20日たってもAからの応答はない。建物の防音工事の見積もりを取り、工事をするめどをつけるだけであれば20日あれば足りる。したがって、相当期間が経過したといえ、BはAに対して代金減額請求をすることができる。
(2) 次に、Cに対して、Aに対して代金減額請求をすることを抗弁として主張することができるか。
 468条は、債務者は対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができるとしている。そして、実際に代金減額請求ができるのは、対抗要件具備後の令和2年10月30日以降であるから、これを抗弁として主張することはできないと思える。
 しかし、468条1項が抗弁の承継を認めているのは、債権譲渡自由の原則の下、債権者が変更されたからといって旧債権者に対抗することができた抗弁を対抗できないとすれば、債務者に対して過大な負担を課すことになるため、旧債権者に対抗できた抗弁は新債権者に対抗できることを確認したものである。そうすると、対抗要件具備時にはまだ発生していなかったとしても、その基礎となる原因が対抗要件具備時より前に発生していれば、その抗弁を旧債権者にたいして主張できると考える債務者の期待を保護すべきといえるから、その原因から発生した抗弁を新債権者に主張することができる。
 本件では、一部解除たる代金減額請求の基礎たる契約不適合は対抗要件具備時より前に発生している。したがって、BはCに対して代金減額請求の抗弁を対抗することができる。
(3) イの主張は認められる。
第2 設問2(1)
1 a部分についてのBの主張
 a部分についてのBの主張は、囲繞地通行権(213条1項)が認められることを前提としている。本件甲土地は分筆によって袋地となっている。そのため、分割によって行動に通じない土地が生じたときにあたり、その袋地の所有者は行動に至るため、その分割者の所有地、すなわち丙土地のみを通行することができる。そして、その際償金を支払う必要はない(213条1項後段)。そのため、甲土地から人が徒歩で出るために必要なa部分は償金を支払うことなく通行することができる。
2c部分についてのBの主張
 Bは、車による通行を前提とする囲繞地通行権も成立すると主張している。車の通行を前提とする囲繞地通行権の成立が認められるかは、車の通行を認める必要性、認めたことによる不利益等を考慮して決定される。甲土地は鉄道駅から徒歩圏内の住宅地にある。そのため、自家用車を使用できなければ移動が困難とはいえない。また、当初は自家用車の利用をしていなかったことから、甲土地を利用する上で自動車が必要不可欠とはいえない。それに対し、車の出入りを認めるために使用する丙土地について使用する部分は徒歩の3倍であり、丙土地所有者の負担は重い。したがって、C部分についての囲繞地通行権の成立は認められない。
第3設問2(2)について
Dが契約②を解除することができるか。
1 Bの立場
 Bは、地役権設定契約において設定者が債務を負うことはないとしている。これは、地役権は他人の土地を自己の土地の便益に供する権利であり、他人の土地を独占して使用するものではない(288条参照)から、対価として債務を負担する必要はないとの理解を前提としている。この理解によれば地役権設定契約は片務契約であり、本件で定められた毎年2万円を支払う旨の契約は契約②とは別個の特約ということになる。
 そして、解除の制度趣旨は債務不履行に対するサンクションととらえ、当該契約の債務の不履行がない限り制裁としての解除をされることはないと考えている。
2Dの立場
 Dは地役権の設定によって承役地の所有者に負担が発生すること、土地を独占的に使用するような地役権については賃貸借契約と同様有償と考えるべきことを前提に、地役権設定契約で土地利用の対価について定めた場合、この契約は双務契約となると考えている。そのため、Bは土地利用の対価として毎年2万円を支払う債務をDに対して負っており、DはBの便益を妨げないという債務を負っていると考える。
 また、解除の制度趣旨は望まない契約からの解放であると考えている。
3解除が認められるか。
 地役権設定契約において償金の支払いが合意された場合には、償金の支払いは特約ではなく、契約に基づく債務となると考えられる。そして、Bは債務を履行せず、履行の催告を受けてもなお債務の履行をしなかったため、541条本文に基づき解除することができる。土地利用の対価が支払われないまま3年も土地を利用していたことは契約の趣旨からも軽微とは言えないため、解除は認められる。
第4 設問3について
 契約③に基づくBのGに対する所有権移転登記請求は認められるか。
1 上記請求が認められるためには、ア令和6年7月10日BF間で丁土地売買契約締結イFの顕名(99条1項)ウアに先立つEからFに対する代理権授与(99条1項)エ令和6年7月24日E死亡(882条)オGはEの姉であり、Eの相続人であること(889条1項2号)、が認められる必要がある。ア・イ・エ・オについてはGからも反論なく認められると考えられる。
2 これに対して、Gは、FはEから丁土地売買についての代理権を授与されたことはなく、無権代理人であったこと、本人の地位を相続したGとしては追認拒絶をすることを主張することが考えられる(116条本文参照)。
3 そこで、Bは、カFがEの妻であることから日常家事代理権(761条本文)について110条の趣旨が類推適用される旨の主張、及びキGの追認拒絶は信義則に反し許されない旨の主張をすることが考えられる。では、カ及びキの主張は認められるか。
(1)カの主張
 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方はこれによって生じた債務について連帯してその責任を負う(761条)。この規定は、夫婦は相互に日常の家事について代理する権限を有していることを前提としている。この日常家事代理権を基礎として110条の表見代理が成立するかを検討するに、表見代理規定を安易に適用すれば、夫婦別産制をさだめた762条1項の趣旨に反し、夫婦の財産的独立を害することになる。そこで、相手方において無権代理行為が夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内であると信じるにつき正当の理由があるときにかぎり、民法110条の趣旨を類推適用することができる。
 では、本件で、Bに本件丁土地売買契約が夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内であることにつき信じるに足りる正当な理由が認められるか。
 本件代理行為は丁土地売買契約である。EとFが不動産売買を日常的に行う職業に従事していたわけではない。また、Eが入院加療中であるため、Fが土地の売買契約を代理して締結することは通常とはいえず、Eに電話等で確認することができたのに、Bはこれをしなかった。したがって、夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内であることにつき信じるに足りる正当な理由があったとはいえない。
 以上より、カの主張は認められない。
(2)キの主張
 Fは常々Eの財産の管理についてGに相談しており、本件丁土地の売買契約についても知っており、かつ自らの事業資金に充てることを目的としてFによる無権代理行為に賛成していた。このようにGは本件無権代理行為を行うことについて主導的立場にあったといえる。そして、Gが追認を拒絶している理由は丁土地をもっと高額で買い取ってくれる不動産業者が現れたからである。相続という偶然の出来事によってGにこのような投機の機会を許すのは妥当でない。
 したがって、Gの追認拒絶の主張は信義則上認められない。
以上よりキの主張は認められる。
4 Bの請求は認められる

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