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令和2年司法試験論文 刑事訴訟法 答案例

こんにちは、井上絵理子です。刑事訴訟法も六法以外何も見ずに書いてみました。驚くべき速さで書きあがってしまい、なにやら論点落としたんじゃないかと不安でいっぱいです。枚数的にも少ない気がする・・・。もちろん、出題趣旨発表前なので、この内容で大丈夫かはまったくわかりません。

第1 設問1について
 令和元年12月4日午後9時20分ごろから同月5日午後9時30分ごろまで行われた被疑者甲に対する取り調べは適法といえるか。
1 刑事訴訟法は197条1項で、被疑者を任意に取り調べることができるとしている。この取調べはあくまで任意捜査であるから、実質的に逮捕となるような態様で行うことはできない。また、仮に取調べが実質的逮捕に至っていなかったとしても、そうであるだけで無限定に取調べができるわけではなく、社会通念上相当な方法、態様で行われることを必要とする。
(1) まず、本件取調べが実質的逮捕に至っていないかについて検討する。逮捕とは人の身体を短時間拘束し、人の移動の自由を侵害するものである。任意取調べにおいては被疑者は出頭後、何時でも退去できるとされていることから(197条1項ただし書)、被疑者の退去の自由が侵害されていないか、それが逮捕の程度に至っていないかを検討する。
 本件において甲は取調べを拒否して帰宅しようとしたことはなく、実際に甲の退去を妨げたという事実はない。また、甲からのトイレの申し出にはいずれも答え、取調べ中に取調室その周辺に取調官以外の警察官が待機することはなかった。そうすると、甲は取調室から退去しないよう監視されているわけでもなく、取調室からの出入りも任意に行うことができたといえる。そうすると、本件ではいまだ甲の退去・移動の自由が侵害され、身柄が拘束されているとはいえない。したがって、本件取調べはいまだ実質的逮捕に至っていない。
(2) 次に、本件取調べが社会通念上相当な方法・態様によるものかを検討する。
 ここで問題となるのは、甲に仮眠をとらせることなく、徹夜で、休憩をはさんでいたとはいえ24時間もの間取調べることは社会通念上相当といえないのではないかということである。
 本件被疑事実は住居侵入窃盗であり、たまたま家人が外出していることから窃盗になっているものの、仮に家人と出くわした場合には居直り強盗もしくは事後強盗事案となりかねない事案である。したがって本件被疑事実は重大事犯に関するものであり、迅速に被疑者取調べをする必要があった。そして、取調べ時には3食休憩をさせており、仮眠をとりたい旨の申し出はいまだ甲からされていなかった。
 しかし、午後3時ごろに甲の言葉数が少なくなり、疲労していることが見て取れた時点で甲に仮眠をするか問うことはできたといえる。また、捜査官Qは甲が疲労していることに乗じて自白を引き出そうとしており、こうした態度は不任意自白の証拠能力を否定する憲法38条・刑事訴訟法319条に反するものである。当初甲が自白していたにもかかわらず、否認に転じ、それを正すために取調べを続行する場合のように、甲の供述態度から取調べを続けざるを得なかったのであればともかく、一貫して否認をしている本件において仮眠をとらせることなく徹夜で取調べをすることは社会通念上相当とはいえない。
2 したがって本件取調べは違法である。
第2 設問2について
1 小問1 自白法則と違法収集証拠排除法則の適用の在り方について
(1)自白法則について
 自白法則とは、「任意にされたものでない疑いのある自白は、これを証拠とすることができない」(319条1項)とするものである。例示として「強制、拷問又は脅迫による自白」「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」が挙げられている。これらは、被告人に対して心理的強制を加え虚偽の自白をするおそれのある状況下でなされた自白といえる。そもそも、不任意自白を証拠とすることができないのは、こうした虚偽自白をするおそれのある状況でされた自白を用いて事実認定をすることは、その事実認定に誤りが生じるおそれがあることから、これを排除する必要があるからである。そうだとすると、「任意にされたものでない疑いのある自白」とは、客観的に虚偽の自白をするおそれのある状況下でされた自白をいう。
(2) 違法収集証拠排除法則について
 違法収集証拠排除法則は通常、証拠物に適用される。すなわち、違法に収集されたとしても、その証拠物の証拠価値はかわらず、それをもちいて事実認定をおこなっても誤りを生じるおそれはない。もっとも、刑罰法令を適正に適用するという刑事訴訟の目的(1条)からすれば、事実認定をあやまらないからといって、違法に収集された証拠を用いて裁判をすれば、違法捜査をしてでも証拠を得ればよいと捜査機関が考えることにつながりかねず、適正な刑罰法令の適用を実現させることができない。
 そこで、捜査が違法であるだけで証拠排除することはできないが、令状主義の精神を没却するといえるほどの重大な違法があり、かつ違法捜査抑止の観点から当該証拠を排除すべきときには、その違法捜査で獲得された証拠の証拠能力を否定することになる。
(3) 両法則の適用の在り方
 前述のように違法収集証拠排除法則は違法な捜査によっても証拠価値に代わりがない証拠物について適用される。もっとも、違法捜査がされていたとしても、客観的に虚偽自白をするおそれがある状況と言えない場面においてされた自白を排除すべきこともあり得る。また、自白法則と違法収集証拠排除法則は証拠排除する理由付けに違いがあり(事実認定を誤るおそれがあるか、違法捜査抑止か)、それぞれが事案に応じて適用されるべきであると考える。そして、明文のある自白法則が先に検討されるべきであり、自白法則によって排除されない自白についてなお違法収集証拠排除法則によって排除すべきか検討すべきであると考える。
2 設問2について
 まず、自白法則が適用されないか検討する。
 この点、甲は徹夜かつ長時間の取調べで疲労していた。こうした状況下においては、捜査官の言うことに同調して、とりあえず取調べから解放されたいと望んでしまう。また、Qは「12月3日の夜、君が自宅から外出するのを見た人がいる」旨嘘をついている。甲の犯行を裏付けるような証拠があると思わされてしまえば、もう言い逃れはできないと思い込み、やっていないことでもやったと述べてしまいたくなる。そうすると、本件長時間の取調べおよび偽計による自白は、虚偽自白がなされるおそれがある状況でされた自白といえ、自白法則に基づき、証拠能力が否定される。
 したがって、本件甲の自白には自白法則が適用され、証拠能力が認められない。
第3 設問3について
 Wの証人尋問請求を裁判所は認めるべきか。
1 証人尋問の結果は事実認定に用いられる(317条)ことから、証人尋問請求が認められるためにはその証人尋問により得られる結果が本件公訴事実と関連性を有していることが必要である。
 検察官は、H市内でおきたX方における甲の犯行と、本件住居侵入窃盗の手口が類似していることから、甲が本件住居侵入窃盗の犯人であることを推認させる事実であるとして、X方における甲の犯行を現認したWの証人尋問を請求している。
 これは類似犯罪を犯していることを立証することによって甲の犯人性を立証する悪性格立証であり、関連性がないとして認められないのではないか。
2 被告人が公訴事実と類似した犯罪行為を行っていることを立証し、公訴事実を行ったのも被告人であるとすることは、「前も悪いことをしたのだから今回もしたのであろう」という予断を裁判官に抱かせ、事実認定を誤らせる危険を有する。また、被告人は公訴事実のみならず別の犯罪についても攻撃防御を行わなければいけなくなり、争点が拡散するおそれがある。したがって、類似事実に関する立証は関連性がないとして認められないのが原則である。
 もっとも、類似行為の手口・態様に際立った特徴があり、それが公訴事実となっている犯行にもある場合には、立証が許されることがある。手口・態様に際立った特徴があり、それと同じ手口・態様で他人が同種の犯罪を犯すことが経験則上考えにくい場合には、当該手口態様で犯罪を犯していること自体が、公訴事実も、類似行為を行った者の犯行であることを直接推認させるからである。
 これを本件についてみると、類似行為の手口は、掃き出し窓のクレセント錠近くをガラスカッターにより切り取ろうとするものである。このガラスカッターがあてられていたことによりX方の掃き出し窓には半円形の傷跡がついていた。本件公訴事実も、掃き出し窓のクレセント錠近くをガラスカッターで半円形に割って室内に侵入するものであり、手口は同一である。
もっとも、甲の家から押収されたガラスカッターは一般に流通し、入手可能なものであった。すなわち、同じガラスカッターを使った別人が同じような犯行をすることは可能といえる。また、掃き出し窓のクレセント錠を何らかの形で開錠して室内に侵入し、窃盗を行うことはよくある手口といえる。そうすると、ガラスカッターで掃き出し窓のクレセント錠付近を半円形に切り取り、室内に侵入・窃盗を行う手口には際立った特徴があるとはいえず、甲がX方でこうした行為に着手していたとしても、それだけで本件公訴事実の犯人性を推認することはできない。
3 したがって、本件では検察官の立証趣旨は悪性格立証ということになり、関連性がないとして裁判所は証人尋問請求を却下しなければいけない。                             以上

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