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令和2年 司法試験論文 憲法 答案例

こんにちは、井上絵理子です。今日は公法系を書いてます。六法のみで2時間はかって書きました。あれ・・・判例とか思い出せないどうしよう、ってかなりパニックになりました。なんとかかんとかまとめましたが、やはり2時間はキツキツですね。例によって出題趣旨発表前なので(8月19日)、内容が大丈夫かはまったくわかりません!

第1 規制①について
 規制①は高速専業であった路線バス事業者の営業の自由を侵害するものであり、憲法22条1項に反すると考えられる。
1 営業の自由について
 憲法22条1項は職業選択の自由を定めている。歴史的に、個人が自分の意思のみに基づいて職業を選択し、自己のあり方を尊重しながら社会にかかわることができなかったことを反省し、個人が自己の意思で職業を選択できるようにしたものである。そして、選択した職業を遂行することができなければその職業を選択した意味がないのであるから、営業の自由も憲法22条1項で保障される。
 したがって、高速専業で運行している高速路線バス事業者にも、高速路線バス営業の自由が保障される。
2 高速専業であった路線バス事業者の営業の自由とその制限について
 規制①は、高速路線バスの運行は、生活路線バスを運行する乗合バス事業者のみができるとするものである(添付資料第4)。生活路線バスを運行する乗合事業者でなければ、高速路線バス事業について国土交通大臣の許可を受けることができないとされていることから、既存の高速路線バス専業事業者にもこの規制①が適用されることがわかる。
 そうすると、高速路線バス専業事業者としては、新たに生活路線バスを運行するか、貸切バス事業者に転向することによって既存の路線を維持するしかないことになる。高速路線専業で乗合バス事業を運行することはできなくなり、これは高速路線バス専業事業者の営業の自由を侵害するものといえる。
3 当該侵害が憲法上許容されるか
 職業は、上記のように、社会と相互に関連しているものであるから、その職業を選択し、遂行するなかで問題が生じ、それに対して法律による規制をもって対処しなければならないこともありうる。職業の種類・内容・性質等は種々様々であるから、どのような問題が生じ、どのような規制をすべきか、はそれぞれの職業・問題に応じて変わることになる。そのため、職業に対する規制が許容されるかどうかは、規制目的・規制態様に応じて違憲審査基準を決定し、その基準に照らして判断すべきである(薬事法判決参照)。
 規制①の目的は、日常生活の足である生活路線バスの収益を安定させ、もって地域住民の利便性の向上を図るものである。収益の安定という社会経済政策ではあるものの、日常生活の足を確保し、国民生活上不可欠な役務の提供が行われるようにするものであるから、社会生活における安全の保障や秩序の維持にも資するものである(公衆浴場法判決)。したがって、目的は消極・積極どちらともいいうるものである。単なる社会経済対策であれば、裁判所としてもそれが違憲となりうるかを判断することは難しく、どういった社会経済対策をすべきか評価判断するにふさわしい立法府の政策的技術的裁量にまかせるほかはない。が、消極目的の政策であれば、因果の流れや手段の有効性が裁判所にも判断することはできる。規制①は確かに消極目的・積極目的どちらともいいが、高度な経済事情等が関係するわけではなく、規制①によって目的が達成できるか裁判所で判断できると考えられる。
 規制①は国土交通大臣の許可を得るための要件を定めるものである。職業の許可制はその許可を受けなければ当該職業に就き、それに従事することができないという原則禁止、例外解除という、営業の自由のみならず職業選択の自由を制限する強い規制である。また、規制①で課されている要件には既存事業者の経営の安定を害することがない場合、という自らの努力ではいかんともしがたい要件が課されている。
 こうした規制目的・規制態様からすれば、違憲審査基準は重要な公共の利益のために必要かつ合理的といえるかとなる。
4 重要な公共の利益のためといえるか。
 地域の生活路線バスに依存して移動する高校生や高齢者にとって、路線バスが維持されることは自らの移動の自由(22条1項)を確保する上で死活問題となる。また、高齢者による交通事故が頻発しているにもかかわらず、免許返納がすすまないのは、生活の足がなく、自家用車を運転せざるをえない状況に置かれていることも理由としてあげられる。
また、生活路線バスが廃止・減便になっていっており、生活路線バスに新規参入する事業者を増やしていく必要がある状況でもある。こうした社会問題があることにつき反論があるとは考えにくい。
しかし、生活路線バスの収益を維持するために高速路線バス専業事業者の存在が問題となっているとはいえない。
 規制①で高速路線バス専業事業者をなくし、生活路線バス事業者と貸切バス事業者だけにするとしたのは、地方のバス事業者は生活路線バスの慢性的赤字を高速路線バス事業の収益と自治体からの補助金でまかなっているため、高速路線バス専業事業者がいなくなれば、生活路線バス事業者の運営する高速路線バス事業の収益が改善されると見込まれるからである。
 しかし、高速路線バス専業事業者と、生活路線バス事業者の運営する高速路線バス事業が競合し、収益が見込めないという立法事実はない。
 立法事実が認められないにもかかわらず、高速路線バス専業事業者を認めないとする規制①は違憲となる。
5 必要かつ合理的な措置といえるか。
 規制①は、高速路線バス専業事業者を禁止するものと、生活路線バスに参入する場合には、既存バス路線業者の経営の安定を害さないことを要件とする二つからなっている。
(1) まず、高速路線バス専業事業者を禁止し、生活路線バスの運行も行うか、貸切バス事業者に転向するしかないようにする手段について検討する。
 前述のようにそもそも高速路線バス専業事業者を禁止する必要性については認められない。また、仮に今後、高速路線バス専業事業者を禁止する必要性を示す立法事実が出てきたとしても、高速路線バス専業事業者にとって過大な負担となり、合理的な措置といえないと考えられる。
 高速路線バス専業事業者が貸切バス事業者にかわったとしても、その場合には別の乗合バス事業者から事業を委託して運営することになる。事業委託や企業結合など、その企業の根本にかかわる変革をしなければ既存事業を維持できないとするのはかなり事業者に負担になる。また、生活路線バスを運行させるとしても、高速路線バスと生活路線バスは車両・路線が違い、営業所の設置維持・運転手の再教育が必要となる。これでは、生活路線バスの新規参入を促すどころか、高速路線バスすら廃業しかねない。
 したがって、高速路線バス事業専業事業者を禁止する部分は違憲となる。
(2)次に、既存事業者の経営の安定を要件とする部分であるが、こちらは合憲となると考えられる。
 規制①の目的は地域住民の生活の足を確保し、もって移動の自由に資するというものである。国民生活上必要不可欠な役務を提供する場合には、その既存業者と新規参入業者が競争しあい共倒れになってしまう、価格を安くし顧客を誘引しあい、結果サービスの低下を招く、などの混乱を防ぐべく、既存業者に一定の独占的地位をあたえ、地域住民に確実に一定の質のサービスが提供されるようにする必要がある。そして、生活路線バス自体は廃止・減便になっているところがあるのであるから、あらたにその廃止された路線を復活させることで新規参入することは可能であるといえる。
 したがって、この規制は必要かつ合理的なものといえ、合憲となる。
第2 規制②について
 規制②は特定区域外の住民が特定の曜日時間帯に特定区域を自家用車で通行するという移動の自由を制限するが、合憲であると考える。
1 移動の自由
 歴史的にどの土地に住み、どこに居所を移すかにつき国家による制限がなされていたことを鑑み、憲法は居住移転の自由を定めた。しかし、移動することで新たな人との交流が生まれ、また経済的にも発展していく。また、どこにいるかを制約されることは人身の自由とも関連している。そこで、居住移転の自由には移動の自由も含まれると解する。
 したがって、自家用車で移動する自由も認められる。
2 規制②による移動の自由の制限および違憲審査基準について
 移動することは徒歩でも、自家用車でも、公共交通機関でも可能である。そのため、規制②は自家用車という特定の手段での移動を禁じているのみであり、その制限は比較的緩やかといえる。禁止範囲も曜日時間帯区域を特定するものであり、制限の範囲も広くない。
 また、規制②の目的は住民の生活の安全を守るという消極目的である。そのため、裁判所の審査能力に問題はない。したがって、目的が重要か、手段が目的との間で実質的関連性を有しているか、で違憲かを判断する。
3 目的は重要か
 実際に都市部や観光地では域外からの車の流入で渋滞が激しく、住民の自家用車での移動やバスによる移動が困難になっていた。また、住宅密集地では歩行もままならず、緊急車両の通行もままならないため、人の生命身体に対する危険すらある。こうした問題に対応することは必要であり、目的は重要といえる。
4 手段は目的との間で実質的関連性を有しているか。
 上記問題に対応するため、特に渋滞の激しいところを特定区域として指定し、観光地であれば観光客が増える週末休日・都市部では通勤通学時間帯のみ域外の自家用車の乗り入れを禁止するということも、有効と考えられる。
 これに対して、観光地においては観光バスによる混雑もひどいことから、自家用車だけを制限しても意味はないとの主張が考えられる。自家用車の乗り入れも渋滞発生に寄与していることからすれば、まずは自家用車を規制することにも意味があると考えられる。
 また、自家用車での特定区域の移動が通勤時間帯等に禁止されることによって、自家用車での通勤が困難になるとの主張も考えられる。もっとも、当該区域の通行が禁止されるだけであり、別の道路を使っての通勤は認められること、公共交通機関の利用も考えられることからすれば、移動の自由の制約がそれほど大きいとはいえず、実質的関連性を有していないほど規制の副作用がおおきいとはいえない。
 したがって、規制②は合憲である                 以上

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