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山田古形の小説

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山田古形が書いた小説の一覧です。楽しいヘンテコ話がたくさんあります。
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2020年4月の記事一覧

領収証書授与ゲーム

「大西先輩。ご卒業おめでとうございます」  鶴見さつきは祝福の言葉と共に、几帳面な筆致の文字が綴られた紙を大西怜衣へ差し出した。怜衣は「ありがとう」と頷き、さつきの手から紙を受け取った。  紙に書かれた文章に目を通し、怜衣は切なげに淡く笑みを浮かべた。さらさらと柔らかい風が吹き、薄く小さな花びらが一枚、怜衣の長く真っ直ぐな髪に触れた。  さつきは怜衣の髪についた花びらを指先でそっと払い、「払ってください」と言った。怜衣は「何のこと?」と返し、ぴうぴうと調子外れの下手な口笛を吹

ヤボの天ぷら

「お客さん。それを聞くのは野暮ってものです」  背の高い店員は地面から響くような低い声で言った。  店員の言葉に戸惑ったように目を瞬かせる青年を横目で見ながら、本宮宥は「ヤボ」の天ぷらに齧りついた。さくりとした衣をくぐって、ほのかな苦味とつゆの甘辛い風味が、口の中に染み入っていく。  先日全く同じことを言われたな、と宥はもしゃもしゃと顎を動かしつつ思う。もしかすると、同じ経験をした人達が、他にも多くいるかもしれなかった。  宥が今いる「月の輪」は、鹿延駅南口のそばにある天ぷら