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【モジャ毛語り 13】薄汚れたヒロミチは透明なヤマダを笑う

【たなか胡桃からのお題:「透明」】






“いま、一歩間違ったら危なかったな”









普通の生活を送っていたとしても、

そんな風に思うタイミングはちょくちょくあるのではないだろうか。






人よりもだいぶぼんやりと生きているヤマダヒロミチには
そのタイミングが人よりだいぶ頻繁にやって来る。







“ギリギリでキャッチ出来たけど、危うく大事なお皿割るところだったな”



“たまたま引っかかったけど、ヘタしたらジャングルジムの下まで一気に落ちちゃってたな”



“送信する寸前で気づいたけど、このメールこの人に送ってたら絶対トラブルになってたな”



“あと少し気づくの遅れたら、火にかけっぱなしの鍋が大変なことになってたな”



“今もし右を確認せずに道を渡ってたら、あの信号無視の車に轢かれてたな“






いわゆるヒヤリハットの瞬間。







不意に襲ってくるそういった瞬間の度に、





昔から必ず、




“透明なヤマダヒロミチ”が目の前にはっきりと現れるのだ。








・・・なんだかスピリチュアルな書き方になってしまった。

怪しい宗教も変なクスリも誓ってやっていないので、
110番を押すその手を一旦止めてほしい。







「あっぶねー」っと思い、一息。




跳ね上がった胸の気圧が一気に下がり、

全身の毛穴から苦酸っぱい汗が滲み出したそのタイミングで、



ふと目線を上げると、必ず彼は居る。







透明なヤマダヒロミチは、



皿をキャッチ出来ず割ってしまって絶望に暮れているし、


宛先を確認せずメールを送ってしまい顔面蒼白でキーボードを叩いているし、


車に跳ね飛ばされて交差点の真ん中で血まみれで倒れている。




その無様な自分が、




透明であるにもかかわらず、


しっかりとした輪郭でハッキリと見えるのだ。







まばたきの合間にいなくなっている。


当然、実在しているわけがない。



他人に話してもあまり共感してもらえないので、
どうやらみんなのあるあるでははないのだろう。





ただヤマダヒロミチは、



透明な自分自身の苦しみ悲しむ姿や、

悲惨な死に様を何度も見てきた。







ただの“癖”なのだと思っていた。




自分のネガティブな状況や怖かったショックを引きずってしまい、

見えるわけもない架空の自分の姿をハッキリと想像してしまう悪癖だと思い片付けていた。





ただ、


そんな“癖”を人生で何度も繰り返しているうちに、

ふとこう思った。










透明な彼らはきっと、





違う世界線のヤマダヒロミチなんじゃないか。







・・・だいぶSFな話だ。



大丈夫、本気で思ってないからブラウザバックしないで。
精神科の紹介も待って。









でも、



もしそうだとしたら面白いなと思っている。





“いま、一歩間違ったら危なかったな”を一歩間違ってしまった
気の毒な世界線を生きるヤマダヒロミチが、




運命が分岐したその瞬間だけ、



「あ、ちなみに今こんな感じになるパターンの運命もありましたよ!よかったっすねー!」

的な感じで、



こちらの世界線にゲストとしてちょい見え。



 

すんでのところで一歩間違わずに生き抜いた、
“正しい世界線のヤマダヒロミチ”である俺に対する答え合わせをしてくれる。







あの瞬間、
一時停止を怠って事故死したアホな世界線のヤマダヒロミチだっていた。



でも、
この世界線のヤマダヒロミチはちゃんと左右を見たから大丈夫だった。




一歩間違った世界線のヤマダヒロミチには気の毒だが、



俺はこれからも、
この正しい世界線で、選択を誤らず正しいヤマダヒロミチを生きてやるぞ。






そんな優越感すら覚える。








だが、

そんな妄想に耽っている最中、

同じようにふと思った。








“正しい世界線のヤマダヒロミチ”が、





今このnoteを書いている俺だとは限らないな。









うっかりジャングルジムから転落して頭を打ってたり、
鍋を火にかけっぱなしにして家ごとこんがり燃えちゃった方が
本来のヤマダヒロミチの正しい世界線で、



今生きている俺は、



その時に“間違って一歩間違わなかった”結果うっかり生存し続けちゃっている、

間違った世界線のヤマダヒロミチである可能性だってあるのだ。






透明な彼らの方が、





ヤマダヒロミチのあるべき姿で、





彼らはその瞬間、





一歩間違わなかったヤマダヒロミチである俺のことを、





恨めしそうな目で見つめているのかもしれない。











まぁ、


それを言い出したらこの世界線の俺だって、


「あの時あの偉い人の言うことを大人しく聞いてたらもうちょっと売れてたのかもなー」
を上手くやれた世界線のヤマダとか、


「あの時の二次会で酔い潰れてなければその後抜け出してあのコとあんなことそんなこと出来たかもしれないなー」
上手くヤれた世界線のヤマダとか、





羨ましく思う分岐先の自分はいくらでもいるのだが。

それらに関してはどう考えてもこっちが間違ってるヤマダ。







身も蓋もない話だが、


どちらが正解でどちらが間違いかなんて、

当然ながらわかりっこないのだ。





ヤマダヒロミチは、


一歩間違ったり一歩間違わなかったりしながら、

透明な自分たちを尻目に、今日も元気に生きている。




このヤマダヒロミチの行く先は相当に不透明で、
世間様的には大間違い極まりない人生かもしれないが、




これからも元気に、




たくさん間違って生きていこうと思うのだ。











この世界線のヤマダヒロミチが、


どっかのタイミングで大富豪になって王宮に住んで、
全盛期の乙葉を8人ぐらい侍らせながら暮らせるヤマダヒロミチかもしれないしね。


透明な俺たちを、
心底羨ましがらせてやりたいのだ。



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