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You Are So Beautiful

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こちらをリピートで聴きながら読んで頂きたい。

高速道路を走っていた
山道を抜けると街の灯りがちらほら見える。
免許は無いからいつだって助手席だった。
寒い寒いと言いながらSAで缶コーヒーを買って休憩した。

車に戻るとすかさずジョー・コッカーの
You Are So Beautiful を流す。
ラヴバラードの至高と言っていい
独りの夜に聴いても癒される
ふたりで聴けば最高の時間になるだろう

5年モノの約束がある。
ただの赤いリップクリームだ
まだおれはあの川沿いの1Kの部屋の玄関から出て行ったきり帰れていないのだ。

高速道路を走っている。
降りるはずのインターを通り過ぎ
間違いだって気付いてるのにも関わらず、次のインターもその次のインターも降りる事が出来ず、ただ高速料金だけが重なっていく地獄の湾岸ミッドナイトを繰り広げている。

間違いだと分かっていながら進み続けるのは人生において地獄でしかない。
でももう、降り方も降り時も分からない所まで来てしまっているんだ。
積み重なった高速料金も払い切れない所まで来てしまっているんだ。

運転手を失った軽自動車の中で、独りぼっちの車内から街の灯りだけを見てる。
酷く暗くて封鎖された所から、煌びやかで楽しそうな街の灯りを指を咥えて見てるだけ。

ハンドルの効かなくなった車は自滅的事故を起こし跡形もなく燃え炭と化すだろう。
持ち主に決して返されることの無い、約束の赤いリップクリームだけが残るのだ。
リスナーを失ったカーステレオからは、
相変わらずジョー・コッカーの 
You Are So Beautiful が流れ続ける。



2年前、5年モノの約束を差し置いて野良猫と2匹暮らし(?)を始めた。
どちらか一方に恋人ができるまで一緒にいよう。という訳の分からない取り決めのせいか、1度もちゃんとデートをした事は無かった。

大抵が我が家で一緒にゲームやるかアニメ観るか、車の中で朝が来るまで星を見ながらお喋りするかだった。曇ったフロントガラスに韓国語で何か書いてた。あれハングル文字って言うんだっけ?最後の日に「あん時なんて書いたの?」って聞いたら「愛の言葉」とか抜かしてた。マセガキが一丁前に洒落た事してくれやがった。

メシを食う度に「残さず食え」「落ちたもんも食え、死にやしない」と脇が酸っぱくなるほど言ったせいか、他所の男とメシ食いに行って、落ちた食いもん端に寄せる動作を見ると違和感を感じる。と呆れ半分でぼやいてた。それくらいには長く一緒にいた。

喧嘩は1度もしなかった、おれは怒られてばっかりだった。もちろん軽快なジョークとドン引きレベルの下ネタで毎回乗り切った。
担当美容師に「一緒に住んでる好きな人はどんな人?」と聞かれて、「チェンソーマンのデンジみたいな人」と答えた話を嬉しそうに100回は自慢してきた。
でもあいつチェンソーマン最後まで読んで無かった。

最後の日にちゃんとデートをした。
それなりにお洒落をして、昼は味噌ラーメンを食って、スーパーで苺を買って、バッティングセンターと猫カフェに行った。
猫と目が合うと、あいつと目が合ってるみたいな気分になった。
おれは楽しかったけど、あいつは楽しめたんかな。家に帰ってから近くの河川敷の公園でギターを弾いて一緒に歌った。それが最初で最後のデートだった。

最後に3日分くらいのメシを作り置きして行ってくれた。
世界で1番好きなメシは回鍋肉だけど、あいつの作るメシの中で1番好きな手羽先の煮たやつを死ぬほど作って貰った。
独りになった部屋であいつが綺麗に洗濯してくれた部屋着を着て泣きながら食った。

10個以上歳上の新しい彼氏は、スーパーの白菜に土が付いてるだけで返金させ、その時レジを打ってたパートさんに 商売とは を説き始めるくらい白菜に執念がある素敵な男性らしい。おれがレジを打ったスーパーの店員だったなら、相手が小便を撒き散らし泣きながら許しを乞いても白菜で顔面を殴打し続けるだろう。

5年モノの約束を差し置いて、レディースのPRADAのブレスレットが洗面所に置きっ放しになっていた。引越しの時に気付いたけど、もう連絡を取っていなかったので自分で身につける事にした。首輪だったのかなあ。外して出てったもんなあ。とか思った。
ちなみにおれが贈ったものでは無い。だからかもしれないけど何とも思わなかった。

リスナーのいなくなったカーステレオからはジョー・コッカーの、
You Are So Beautiful が流れていた。
壬生町は22時を過ぎると星と月の明かりだけになった。
灰皿にピースライトの吸い殻は溜まらなくなった。お米を4合炊かなくなった。冷蔵庫の中の炭酸飲料は見る影も無くなった。
あまり好きじゃなかった母親に車を買う為に、声優の学校に行くために貯めた学費を全部使ったと連絡が来た。

おれは最後まで自分の気持ちは言わなかった。

最初に終わり方を決めた恋は、決めた瞬間にクライマックスを迎えちゃってて、残りの時間はただの消化試合なんだよね。
ただ、何回表も何回裏もフルカウントのツーアウト満塁の場面がやって来るから、消化試合が1番濃く感じてしまうんだと思う。
消化試合の方が楽しいんだよね。あれ、マボロシくらい楽しかった。

ごめんね。運転できないくせに「安全運転で」とか言って。
ごめんね。お前が楽しみにしてた食いもん夜中のうちに全部勝手に食って。
ごめん、一緒に進めようって言ったリトルナイトメア2先に勝手にクリアして。
ごめん、カラオケ行くといつも割り込んでデカい声で歌って怒らせて。
ごめんね。終わり方を先に決めちゃって。
愛してるって言えなくて。

ごめんね。










おわり。


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