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「タイトル」について

不特定多数に向けて公開する記事やコラムの冒頭に載せる「タイトル(=見出し)」は、近年SEO(※検索エンジンからサイトに訪れる人を増やすことで、Webサイトの成果を向上させること)などとの兼ね合いによって、紙媒体で培われてきた技術的セオリーが必ずしもインターネット媒体では通用しないケースもややあったりしますけど、それが

「本文の概要をわかりやすく伝えるもの」

…であるべきなのは、今も昔も変わりません。

ところが、日々ネット上に垂れ流される有象無象の公共コンテンツのなかには、本来だと最低限死守しなければならないはずの「わかりやすさ」すら疎かになっている「タイトル」が、時おり目につきます。たとえば、こんな「タイトル」の記事がありました。

「散歩中の男性背後からイノシシ襲う…
警官らが取り押さえ直後に死ぬ」

香川県高松市春日町で起きた事件を、
とある大手新聞社がオンラインで報じた際の記事タイトルであります。本文を読めば、

高松市春日町を流れる春日川の土手を早朝に歩いていた70代の男性がイノシシと対面

その70代男性が頭や腹や手足から血を流し、擦り傷を追っている姿を見つけた通りがかりの人が
119番に通報

その70代男性は、病院に搬送されたが、
命に別状はなし

(同市によると)その70代男性は散歩中に背後からイノシシに襲われ、斜面を転がり落ちた…とのこと

(同市によると)イノシシは駆けつけた警察官らに
取り押さえられた直後に死んだ…とのこと

…って内容だったんですけど、この「タイトル」を読むかぎりでは──「取り押さえ直後に死んだ」のが、はたして「散歩中の(70代)男性」なのか
「イノシシ」なのか…あるいは「(取り押さえた)警官ら」なのかがさっぱり判別できません。

「散歩中の男性が背後からイノシシを襲った…のか」
「散歩中の男性を背後からイノシシが襲った…のか」

…さえ、不明のままです。ぼくはこの「タイトル」のみをパッと一読したとき、

「散歩中の男性が背後からイノシシを襲って、そのあまりに凶暴な男性を複数の警官がどうにか取り押さることはできたものの、その取り押さえ方が相当にハードだったため、イノシシを襲った男性がコロッと
死んでしまった」

…のだと真剣に思ってしまいました。なんてダイナミックで世知辛い事件なんだ、と。ああ勘違い…。
天下の◯◯新聞サマに勤める

「文筆界におけるドラ1クラスのエリート」

…の仕事にしては、
あまりにもお粗末ではありませんか。

だがしかし! コレがもし万が一…

「どーいうこっちゃねん!?」

…みたいな読者の好奇心を刺激することを目的とした確信犯だったとすればどうでしょう? 
ついついクリックしてしまった(ぼくをはじめとする)何千何万のネット住民らは、まんまと術中にハメられたわけで…そうなったら逆に文筆に携わる者の一人として、この記者サンの優秀さを称賛せざるを得なくなってきます。

こうした「わかりづらさ」を逆手に取り…おそらく確信犯として「読者の誤読」を狙った、スポーツ新聞や夕刊紙でよく見られる荒技の一つが

「ノーバン始球式」

…です。
たとえば、こんな「タイトル」の記事がありました。

「橋本環奈
天使すぎるセーラー服姿で
見事なノーバン始球式!
『カ・イ・カ・ン』でした…」

2015年に、とあるスポーツ新聞が報じた橋本環奈の始球式の1シーンで、フタを開けてみたら…

「当時まだアイドルユニット『Rev.fromDVL』のメンバーだった橋本環奈(現在は女優)が、翌年に公開予定だった主演映画『セーラー服と機関銃-卒業-』の役にちなんだセーラー服型で、福岡県のヤフオクドームにて始球式へと挑んだ。
その投球は見事なノーバウンド投球で3万7600人の観衆からは大歓声を浴び、その後に感想を聞かれた橋本環奈は『快感でした』とのコメントを寄せた」

…という、一見たわいもないニュース
でしかありません。

たった40ワード程度の見出し文で、このような「一見たわいもないニュース」に、さりげなく淫猥な響きをフレイバーしてしまう百戦錬磨なスポーツ新聞記者の剛腕っぷりには、ただただ脱帽するばかり…ですが、ネット住民のあいだでは、すでにこのしたたかなトリックに対する苦情めいた討論もしばしなされており、この「ノーバン」「ノーパン」──つまり

「パンティをはかないまま始球式で投球をした」

…と、発信側が読者側を妄想させるよう、作為的に使用している…という噂は絶えません。

「ノーバン」「ノーバウンド」を瞬時で脳内直結できるのは、意外とコアな野球ファンだけで、あまり野球に精通していない層には、字面としてMAX級のインパクトをただよわせる「ノーパン」とインプリントされ、つい「ノーパンティ」をイメージしてしまいがちなのがポイントなのではないでしょうか。

濁点と半濁点をすり替えただけで、ここまで意味合いが違ってくるワードを、ぼくは他に考えつくことができません。
「パリ」「バリ」…くらい(笑)? しかも、

「見事なノーバン始球式!」

…なる見出しは「ノーバウンド」であっても「ノーパンティ」であっても文脈的には充分に成立するわけであって…だったら「野球に精通していない橋本環奈ファン」が、その「ノーバン」

「ノーパンティ」

…と解釈したくなるのも無理はない。野球ファンだけではなくアイドルファンをも“読者”として取り込もうとする、じつに狡猾なテクニックではありませんか!

ミニスカート(あるいはミニスカートチックなホットパンツ)を着用した著名人女性が始球式に登場し、投げたボールがノーバウンドでキャッチャーミットに納まったならもうしめたもので、そういう場合はほぼ100%の確率で「ノーバン」という単語がメディア上をおどりまくる──自己最高球速105㎞/を誇る、「神スイング」としても有名なグラドル・稲村亜美なんかは、すでに何回何十回「ノーパン」…ならぬ
「ノーバン投球」を果たしてきたことでしょう?

さらに、今回取り上げた橋本環奈ケースにいたっては、その「ノーバン」

「セーラー服」
「カ・イ・カ・ン(=快感)」

…が加わり、「ノーバン」「ノーバウンド」といった“正解”へとたどり着くことを至極困難とするキャッチコビーに仕立て上げられています。

当たり前の話、始球式にノーパン(ティ)で挑む女性タレントなんてまずいないし、仮にそうしたいとタレント側が希望したとしても、主催者側がそれを許してくれるはずもありません。けれど、そういった一般常識に安堵しきって、

「よっぽどのアホじゃなきゃ、そんな勘違いするわけねーだろ!」

…と一笑に付すアナタ──もし、本コラムのここまでを読んで1ミリの違和感も抱かずスルーしてしまったのなら、笑っている場合じゃないですよー!

なぜなら、今回の原稿には一つだけ! あえて

「わざと濁音と半濁音を誤記している箇所」

…があるのです。ちゃんとチェックできました?


【正解】キャッチコビー


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