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U9と僕

「何点取られてもあきらめていいサッカーなんてないんだよ!」そう一言ピッチに放つと僕はその後パタリと喋らなくなった。厳密に言うと喋れなくなった。2-6というスコアを見て真っ先にゲームを投げたのは僕の方だったのかもしれない。いつもはうるさいぐらいにその声を響かせているのに、都合が悪くなるとすぐにこうだ。

U9最後のTRMを振り返って

このカテゴリーでも毎週のようにコンスタントにゲームに誘ってくれるチームがいることは本当にありがたいことです。やはり選手はゲームが好きですし、選手がゲームで育つのはどうやら間違いないようです。毎週こうして学びの機会がいただける、これも長い歴史を持つ少年団の築いてきた信頼ゆえのもの、恵まれた環境に感謝します。

さて今日はこのチームで臨む最後のTRMでした。1年間積み重ねてきたものの答え合わせとなるゲームは内容と結果そのどちらも喉から手が出るほど欲しいのです。「終わり良ければ…」やはり1年の終わりに自分がやってきたことが間違っていたと思うのは少々心に来るもので、いゃ別に積み重ねてきたものに間違いなんてないんですが、僕の中で自分の指導を振り返る上での正解を出しておきたかったのです。

15-5-15-5-15を3チームと。これを11人で回すにはあまりに酷なレギュレーションでしたが、それでもよく戦いました。

今年1年間を象徴する良いゲームができたと思います。ただ来たボールを前に蹴るだけだった半年前、ポジションもろくに守れなかったあのゲーム、コントロールもできずにパスも繋がらなかったあの日、何もできずに涙したあの大会、色んなものを乗り越え彼らは今自分達で意図してボールを動かしています。

ゴールキックはペナ内で受けて、トップ下、トップの選手は1本でラインを突破できるパスラインを確保します。SHは相手の出方を見て外か中かのポジションを決める。パラレラ、ワンツーでの前進。目の前が渋滞していたらキャンセルしてまた作り直す。細かくボールを動かしていく作業が多い分、リスクも多いけれど(数的優位でリスク回避できても、実行の危うさがリスクになるという意味で)この方向で間違っていない、そう思えるゲームになったと思います。クオリティの高いものではないですが、本当に彼ら考えてプレーしてます。

そして今日も変わらず、全員が出場する中でそれぞれのレベルで学びを得ました。できることも増えました。「1、2本目はレギュラークラスの子を、3本目はあまりゲームに出れない子を」ということを伝えられましたが、うちにはレギュラーも補欠もいません。出場時間に差はあれど全員がゲームに出るのがあまりこだわりのない僕の唯一の指導方針です。

誰が出ても同じクオリティを…と豪語するにはまだまだ力の差はあります。サッカーの入り口に立ってからまだ3年程度。その3年でついた差はまだまだ元々の身体能力の域を出ません。これはもうしょうがない。今はまだくすぶっている子も、3年後、いゃもっと先で花開くことを信じて育成していくしかないのです。今年サッカーを始めたあの子はみんながお昼を食べている時、一人マーカーを並べてドリブルをしていました。そういうことです。

そしてこのゲームを最後に、僕らはこれまで苦楽を共にしてきた3人の仲間とお別れをします。Jリーグの下部組織に移籍する選手、県外のチームに移る選手、他競技に進む選手、3人ともチームを引っ張ってきてくれた本当にスーパーな才能でした。「あぁこういう子がプロになるだろうな」と思わせてくれる技術、身体能力、そして人間性に優れた才能でした。僕の指導者としての在り方を変えてくれたあの女の子とも一度さよならです。僕は彼らに出逢えて、多くを学びました。一番の学びは「3年生だから」という言い訳をポケットに忍ばせておく必要なんかないということです。学年や年齢でその子を縛ってしまうことがもしかしたらその子の成長を奪ってしまうことがあるような気がするのです。僕は普段中学生と接していますが彼らもまた同じ。子どもを子どもたらしめるのは僕ら大人であって、彼らは余裕で僕ら大人の思考を超えてくるのです。僕はよくトレーニング中にニヤニヤしてる事を子ども達に指摘されます。その時はたいてい「すげぇな」とこぼし、口を開けています。きっと近い将来静岡を超えて、日本を驚かすそんな才能だと信じています。

U9でできるようになったこと

今年はとにかくたくさんのことができるようになった1年だったと思います。個人的にこのU8とU9の1年の差は育成におけるひとつ目のターニングポイントだと思っていて、それぐらいこの1年の差は大きいんですね。脳や身体の発育発達の話になってくると思うんですけど、ただただ頼もしくなったなと思います。

きっと科学的な知見で色んなところでカテゴリーにおける違いは謳われてそうなので、あくまで僕が、僕の見ている彼らの1年という視点だけでいくつかできるようになったことを語りますね。異論は認めません、事実ですから笑

ポジションの感覚が持てるようになった
これはかなり大きな変化でした。U8の時はボールだけを見てポジションが決まっていたので、左の選手がいつの間にか右に、FWの選手がディフェンスの位置に意図せずいることがありましたが、それがなくなりました。持ち場を守れるという表現が適切ですかね。スペースの管理ができるようになると、''いるべき場所にいない''問題から失点をすることはほとんどなくなりました。また、ボール保持時も幅、深さ、高さと適正なポジションを取れることができるようになってきたので、ポジショニング1つでプレスの回避ができます。技術的にまだ未熟な選手もタイミングよく幅を取っている姿を見ると、''なぜ?''を理解してポジションを取っているんだなと感心します。1年前はまだ悩んでいた''団子サッカー''は、そんなサッカーをしていたのも忘れるぐらいに姿を消しました。

サッカーの言葉で話ができる
僕はサッカーに大人も子どももないと思っていて、サッカーの本質的な部分、いわゆる原理だとか原則だとか言われる部分はどのカテゴリーも同じだと、14歳であれ9歳であれ、伝えるべきことは同じだと考えています。先にも述べましたが、○歳だから理解できないということはないと思っていて、その年の選手に伝わるように伝え方の最適化を図る必要があるだけだと思っています。僕はU7、U8ではなんとか彼らの生活とサッカーをリンクさせようと例え話を用いて原理原則を伝えてきました。ボールばかりに集まってしまってピッチを広く使えていない時は「10万円の部屋借りてるのにトイレだけ使って生活してるのもったいなくない?」と。ボールのオン、オフに合わせてラインコントロールすることが理解できない時には「ラインアップはだるまさんが転んだと同じだよ」と。なんでコンパクトを作るか理解できない時は「教室でゴキブリ捕まえるのと、ダンボールでゴキブリ捕まえるのだとどっちが簡単?」と、原理原則をなんとか料理して食べさせたのです。ただ今年はほとんどその必要はなく、サッカーの言葉で共通理解ができるようになりました。僕のミーティング、ゲーム中ピッチに響く言葉はサッカーの言葉になりました。

ミーティングが意味をなすようになった
普段中学生と生活をしていて感じる「自分の想いを伝える」「人の考えを聴く」という姿勢の大切さは学校教育や家庭教育だけで成り立つものではないと考え、第三のコミュニティであるチームでどれだけその機会を作ることができるかが大事だと考えました。積極的に子ども達同士が話し合う場を僕が関わり始めたU7のカテゴリーの時から継続して行っています。当時は、''ミーティングの体(てい)''をなしていたそれは、「うん、うん」という聴く姿勢こそあったものの、その相槌に理解を持って頷いていた選手はわずかだったと思います。想いを伝える側も正直何を言ってるのかわからない、やはり形だけのミーティングの域を出ないものでした。ただ、普段のトレーニングの中のミニゲームの前ですら話し合うことを求めてきて、それぞれがサッカーへの理解が増えてくるとミーティングが本来の意味をなすようになってきたように感じます。

今日のハーフタイムはこんなやり取りをしていました。

ボードを使って横の距離感を話している場面

K「BとMの間にパス通されちゃってるからどうしたらいい?」
全員「閉める!」
B「え、俺閉めてるよ!」
K「いゃもっと閉めて」
B「りょ!」

自分の想いと実際に起きている現象のズレを指摘された時、それを理解しようとしているのは素敵だなと。

CBからSBの選手への配球の場面

K(CB)「もっと早く広がれる?」
F(SB)「まだ幅取れてないからさ、パス出さないで」
M(キーパー)「一回俺まで下げていいよ。そうすればその間に広がればいいじゃん」

実際に体勢ができていない中での無理な配球がなくなったのでミーティングが意味を持ったなと思いました。

少しずつ僕がいらなくなりつつあるのは嬉しいことですね。まだピッチ内の課題をゲーム中に伝えあって修正までは難しいですが、一度場を設けてそれぞれが見えた景色を共有できることが当たり前になってきているのは素敵です。

色んなトレーニングができるようになった
これはやはり大きいですね。上記の3つに加えて、当然だけど技術が向上したのです。止める、蹴るの実行部分が上手くなったのはもちろん、サッカーのことがわかってくると認知の部分が飛躍的に向上しました。首を振る事が目的になっていた選手達が、少しずつ見るべきものを選んで見れるようになってきているのを感じます。このようにプレーにおける向上が見られると何が変わったかと言うと、幅広いトレーニングができるようになってきたということです。僕のトレーニングはどうしてもグローバルなものが多いんですが、U8の時はどうしてもその実行部分の弱さ、理解の乏しさから「トレーニングのレベルが合っていない」「ミスばかりでトレーニングがグダる」という現象が起こり、積み重なっている感が弱いなと感じたのです。ただ今年は色んなことができるようになり、トレーニングの度に獲得できるものが増えている実感があります。グループのパスコンもそれぞれが止める蹴るがある程度できないと、ボールがあっち行ったりこっち行ったりでテンポが悪くプレー回数を確保できないんですが、今年はそれがなくなりました。''パスコンがスムーズに流れる''はある種実行部分の高まりを確認する指標になるかなと思います。

アナリティック(ドリル)とグローバルのバランスはよく聞かれるのですが、僕はグローバル多めのもちろんアナリティックも、最後はゲーム30分ぐらい確保のイメージです。このカテゴリーにしては多い週4回1回90分のトレーニングがあるんですが、そんな感じです。時にゲーム1時間な日もあるので、きっちりこうじゃなきゃいけないはないと思っています。僕が学校行事が忙しくて丸々1ヶ月参加できない時期があったんですが、その時期はお父さんコーチにお願いしました。サッカー専門ではないのでドリルとゲームがメインだったんですがこの1ヶ月の成長にはビックリしたのでやはりこのカテゴリーでドリルめちゃくちゃ大切だなと感じました。どうしてもドリルって飽きてしまって根気強くできないので本当にありがたいです。僕とお父さんコーチの2人で見てきた1年でしたがめちゃくちゃ助かりました。本当に素敵なコーチです。やはりそれぞれの色があるので、育成は色んな目で見るのがいいなと思っています。わざわざ連絡をくれて指導に来てくださった方々もありがとうございました。もしご興味ある方いらっしゃいましたら声掛けてください!

U9と僕

この1年は僕にとっても子ども達にとってもターニングポイントとなる1年だったと思います。色んなところに足を運んでは自分達の進んできた道に自信を持ち、少し慢心を持つとボコボコにされてまた自信を無くし。その度に一緒に凹んで、勝った時には年甲斐もなく喜んで。決してスーパーが揃ったチームではないですが、3年後静岡を驚かせる準備はできてるつもりでいます。リスクを冒してチームとして戦っている分、結果が伴わずに悔しい思いも多いんですが、僕達の進んでいる道は間違っていないと思っていますし、「やろうとしていることが難しいんだよ」と色んなところで言われてもやっぱり曲げたくないポリシーもあって。彼らと過ごす事のできる時間も長くてあと3年。僕も途中でクビにされる可能性もありますし…だから今目の前にある間違いなく自分の生きがいだと言える幸せを逃さないように掴んでいたいなと思います。もうすぐU10カテゴリーが始まります。公式戦も増え、僕の指導者としての在り方も試されると思います。色んな場所で声を掛けてもらえる機会も増えたので「あ、山田さんてだいぶお話盛られてるのね」って言われないように頑張ります。









2-6、今年1年積み重ねてきたものの大きさを信じていたからこそ「こんなはずじゃない」とあまりに空回るゲームを受け入れられなかったのかもしれない。それでもその後4点を取り返してなんとか同点にしてきた彼らが今年1年で手にしてきたのは、
















何があってもあきらめない強さだ。

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