わからないことをわからないと言える人は

世の女性が選ぶカッコイイ男性ランキングはきっとこんな感じだ。

カッコイイ男性ランキング2020
1位山崎賢人
2位吉沢亮
3位わからないことをわからないと言える人
4位新田真剣佑

昔から学校でもわからないことはわからないと言える子ではあったんだけれど、大人になってある程度わからないことも体裁を整えてそれっぽく言葉にできる力を手にしてしまうと、本心ではない飾ったものをあたかも自分の本意かのように世に出してきてしまった。その化粧の上手さから多くの人に支持してもらうことも増え、時に相談を掛けてくださる方もいた。しかし、話をすればするほどスッピンの不細工さに気づかれ、付き合えば付き合うほど底の浅さがバレるのだ。「あ、こいつ本当はわかってねぇな」ってな具合に。

色んなところで書いてきているし、子ども達にも伝えていることだけれど、僕は基本的に誰かの軸で生きてしまう持病を持っている。わざわざ自分の意志を曲げずに戦おうとは思わないし、たとえ世論が自分とは違うところを歩いていようともマジョリティに後ろから石を投げようとは思わない。要するに「誰からも悪く思われたくない」という生き方をしているのだ。節操の無さを批判するためネガティブに使われる方の八方美人が言い得て妙である生き方をしている。もちろん敵を作らないという生き方はとても心地良く、生きやすさだって孕んでいるけれど、なんとしてでも自分の意志を貫く漫画の主人公がもれなく持っていそうな八方ブスのパーソナリティだって少しは欲しいのだ。

僕は基本的にそちら側の人間ではないから、子ども達の相談にも、その後その子に待っているであろうリスクを全部拭ってあげられる保証もなしに、安易に借りてきた言葉で相談に乗りたくない。「言いたいこと言おうぜ！」「一度切りの自分の人生なんだから我慢なんかすんなよ！」みたいなのはギラギラした自己啓発本に任せておきたい。最終的な生き方を決めるのは教師の仕事ではないから。

所さんあたりがMCの番組で「日本全国、誰からも悪く思われたくない人が実際に言われたことはないけれど、『相手は心の中で思ってるんだろうな』と考えただけで傷ついちゃう言葉ランキング！」みたいな企画をやったら、3位の「口くさっ」、2位の「服ダサっ」を抑えて栄えある第1位を獲得するであろう「え？そんなことも知らないの？」は僕が「わからないことをわからない」と言えない一番の足枷になっている。違うだろうか？

わからないことをわからないと言える人は

僕は基本的に保健体育の教師とサッカーの指導者として生きている。SNS全盛の2020年に何も持ち合わせていない普通の人がそこそこに認知されるシンデレラストーリーに乗っかることができたのは、少しだけ無いものを有るように見せるのが上手かったからというだけの話で、ホンモノは''普通''にも満たないSNSで盛れ過ぎちゃっただけの人なのである。

僕はボールを蹴っている期間で言えばもう人生の大部分、20年以上になるわけだけど、しっかりサッカーを教わったことなんてないからサッカーについて知っていることなんて下手したらちょっとサッカーに詳しい小学生以下かもしれない。つまり、28歳になるまでにそれぞれの年齢で通らなければいけないことを通っていない未履修の状態が多いのだ。

28歳にもなって未履修が多いのに履修済みの振りをすることばかりが上手くなると、しっかり通るべきところを通ってきた人達との差を痛いぐらいに感じるのだ。掛けてきた年月は同じぐらいないのに、知る由もない思考の差、挑戦の差、挫折の差、つまり積み重ねてきたものの差は絶望として痛みとなるのだ。その絶望を埋める一時的な処方箋は無いものを有るように虚勢を張ることであり、根っ子から治すためには、わからない自分を受容して埋めていくしかなさそうなのだ。

わからないことをわからないと言えない人は、早めにそのパーソナリティを矯正しないと、変なプライドは色んなところに転移して手をつけられなくなる。僕はプライドはどこかで何かに気づかない限りある一定まではどんどん膨れ上がると思っている。気づいた時にはもう転移しきっていて今さら生き方を変えられないんじゃないかと思う人を周りにたくさん見てきた。

じゃあ早めにそんな自分を変えたいと思った人がぶち当たる壁は間違いなく「そんなこともわからないの？」って思われたらどうしようという思い込みなのだ。そいつさえ無ければイケるのにと思う人はたくさんいるだろう。僕もそいつが厄介で中々チャレンジできずにいることがある。

しかし、大失敗した授業のこと子どもは1mmも覚えていないように、どこの本にも書いてありそうな「人は意外と自分が思っている以上に気にしちゃいない」というありきたりなアドバイスは結局のところ人間は自分が大事という本質を突いている分、割と誰にでも効く薬なのかもしれない。

そして、自分がわからないことを素直に伝えて教えを請いたいと思って選んだ相手は、数いる人の中から選んだだけあって、その人達もきっとそこら辺の弱さを受容して乗り越えてきた人達だから、僕が知らないことを大した問題として扱ってはくれないんだと思う。自分が選んだコミュニティにいる人達はだいたい優しい人だ。

そして、僕はかっこいい自分も知ってるから、たまにはかっこ悪くある自分がいるのもなんだかチャーミングじゃないか？そして、その弱さを受け入れて前に進める人はかっこいいよなと子ども達には伝えたい。「わからないことをわからないと言える人は…」と言い聞かせて、これまでの未履修をなんとかしていきたい人生だ。

今朝子どもに「あれ、センモン家のモンて口入るっけ？」って聞いたら「ださっw」って言われたから、さすがに聞いちゃいけないこともあるっぽい。