見出し画像

#12 できて半分、映画宣伝の真っ只中にいます

このnoteは12月25日全国公開の映画『AWAKE』の監督・脚本をした山田篤宏が(オンライン試写が始まっていない)今なら俺はまだエゴサできる!と思いながら書いています


新宿武蔵野館さんにて超素敵なAWAKEの展示がちょっと前から始まっています!!(執筆時とズレがありまして)

思えば一人で映画館で映画を観始めるようになった高校生の頃、最も通ったのは新宿武蔵野館だと言っても過言ではありません。行定勲監督の処女作『ひまわり』、SABU監督の『ポストマン・ブルース』、そしてドイツ映画の超名作『ノッキン・オン・ヘブンズドア』なんかも全部この頃武蔵野館で観ました。どの作品を観た帰りだったか、制服のまま電車に乗るため地下道への階段を降りていく際に、中年の男性に「お茶飲みに行かない?」って誘われたことなんかと一緒にまざまざと思い出します(断りました)。お近くの方は是非お立ち寄りください!

映画は完成して半分

その昔懇意にして頂いていた映画評論家の方に、その当時作っていた短編映画(『My First Kiss』のことです。第二回参照)をお見せしたところ「映画は完成して半分、ここから頑張ってくださいね」と言って頂いたことがあります。じゃああと半分は何?って話なんですが、要するにそれは上映して、より多くの人に観てもらうこと、と。作って半分、観てもらって半分、それで「映画」はようやく完成、というわけです。

これで思い出すのは、映画学校とか行ってると散々聞かされる、映画を発明したのは誰か?という話です。これはみなさんご存知のエジソンと、フランス人のリュミエール兄弟のどちらか、で議論が生まれたりします。ところがエジソンが発明したのがキネトスコープと呼ばれるのぞき窓型の一人用の映写機だったのに対して、それよりもちょっと後にリュミエール兄弟が発明したシネマトグラフはスクリーンに投影して、みんなで鑑賞するスタイルのものでした。そんなこともあって、現在では「映画」の発明者はリュミエール兄弟、というのが定説です。まわりくどかったですが「映画」はやっぱりその誕生から、上映までやって映画なんですね。

では、より多くの人に観てもらうにはどうするか?そこで出て来るのが「宣伝」てことです。というわけで、果たしてどこまでちゃんとお伝えできるかわかりませんが、今回は既に始まっていて、なんなら今まさにその渦の真っ只中である『AWAKE』の宣伝に関して思うところを書きます。

映画監督である期間

『AWAKE』は周知の通り僕にとっては初の商業映画作品であり、また現状『AWAKE』以外では映画監督の仕事はしておりませんので、「自分の周囲に自分を監督と呼んでくれる人がいる」という期間はそもそも特別だったりします。その期間の第一の山はもちろん周囲に大勢のスタッフがいた撮影〜編集の制作期間なのですが、もう一つの山が、現在の宣伝期間に当たります。図解するとこんな感じ。

画像1

※『AWAKE』の自分なりの宣伝期間は公開日程が具体的になって、宣伝プロデューサーと初めて会った2020年7月以降現在、そして公開〜上映期間がそれに当たるのではないかな、と

この期間は、宣伝のスタッフをはじめ、取材を受ける各紙のライターさんやカメラマンさんや編集者さん、試写を観に来ていただいた方々、そして宣伝期間に再会するキャスト陣などから「監督」と呼ばれまくります。そして、撮影時にはなかった要素として、この「監督」という属性が外に向かって発信されていくというのがこの宣伝期間なのだなあ、と思います。つまりは「宣伝」が僕を社会的に監督にしてくれるとも言えるんじゃないでしょうか。

はじめてのじょうほうかいきん

宣伝プロデューサーと会った直後に行ったのが、メチャ業界用語クサくて恐縮ですが「情報解禁」へ向けての準備です。「情報解禁」というのはまあ意味は読んだままなんですが、具体的に何が行われるかというと、宣伝チームから各媒体(テレビ・Web・雑誌等々)に「リリース」と呼ばれる資料が一斉に送信されるんですね。各媒体はそれを元に、自分たちのところでニュースや記事にする、と。で、その「リリース」に含まれるものを吟味するのがここの準備の段階になりまして、僕で言えばここで初めて「コメント」を求められました。その時に出した僕のコメントは現在HPでもご確認頂けますし、キャストのみなさんからのありがたいコメントも、概ねその際のものです。

この「情報解禁」前は、映画『AWAKE』の公開時期はおろか、存在すら、まぁほぼほぼ関係者しか知らないわけです。それをどーん!と出すことによって、一気に世の中に拡散、かくして宣伝の火蓋は切っておろされます。

情報解禁が行われたその日の内に露出状況の報告をレポートとして頂いたのですが、流れとしては主要ウェブサイト等がまず記事にします。その上で、twitterなどSNSアカウントを持ってる媒体はそれをツイートして、その記事なりツイートなりをさらに引用したサイトが拾って記事にしてツイートにして、さらにそれを読んだ一般の方がツイートして、と「リリース」という幹から枝葉がどんどん分かれて行くかのごとく情報が広がっていくのがわかりました。「はーこいういう風に伝播していくんだなあ」と感慨深く眺めていた記憶があります。ここがいわゆるポイント・オブ・ノーリターンでして、あとは公開に向けてまっしぐら、『AWAKE』の劇場公開映画としての「完成」へと向けて突き進んでいきます。

はじめてのしゅざい

そうした流れの中で程なくやって来たのが、「取材」というやつです。『AWAKE』の僕に関する取材で言うと、一番最初は「プレスシート」と呼ばれる試写会参加者に配られる資料に載せるためのインタビューを受けるところから始まりました。プロデューサー、そして宣伝プロデューサー同席の元、ライターさんがみっちり2時間、新人監督としての僕自身のこと、そしてもちろん映画に関わることを根掘り葉掘り聞いてくれて、後ほど文章にまとめてくれます。こちらとしてはライターさんからのこういった形の取材なんて生まれて初めてでして(それ以外では山形国際ムービーフェスティバルのグランプリを獲ったときに地元の新聞から一瞬インタビューを受けたくらいです)、むしろここで取材のイロハを教わるような感じになりました。

で、取材が終わってすぐに痛感したのは「受け答えにも技術がいるなぁ」ということです。というのは、ライターさんからしても、記事にしやすいエピソードが出てくるというのはそれはそれで当然ありがたいわけです。撮影中に一番苦労したシーンはどこか?撮影中に何かハプニングはあったか?役者への演出ではどういう具体的なやりとりをしたのか、etc...。ただ、こちらとしては一年前に終わってしまった撮影を十分に思い出すことなく臨んでしまいまして、結果ダラダラとした受け答えに終始してしまい、「ここを観てほしい!」みたいなアピールに欠ける内容になってしまったのではないかな、と。そもそも現場で一番考えていたことは、実際のところ徹頭徹尾「今日のスケジュールを無事撮り終えることができるだろうか」ですので、細かいことはこの時点では結構忘れてたんですね…。もちろん、苦労やハプニングは当然あったんですが、こちらとしては「映画撮れてる!楽しい!」という気持ちと「やべえ!この問題さっさと解決して、次撮らないと撮りきれない!」の連続の中、それらは埋もれていってしまっていたわけです。

で、この時のライターのイソガイさんにはおそらくまとめるのに非常なご苦労をおかけしたのですが、実際プロデューサーとも「これじゃあいかん」と話し合いまして、あの時はああだった、こうだったと、撮影当時のアレコレを思い出して、以降の取材には挑む形となりました。

はじめての(しゃしんアリの)しゅざい

次にやってきたのが写真アリの取材です(これ、詳細言いたいんですが解禁の関係で若干濁して書きますが、おそらく次々回にネタバラシします)。もう公式twitterでもいじられてるんで緊張緊張とか言いたく無いんですけど、これは流石にメチャメチャ緊張した…。

そもそも、普段から別に写真が好きじゃ無いのでほとんど撮ったりしないにも関わらず、撮影スタジオでガッツリ照明とか組まれ、多数のスタッフが見守る中写真撮る、とか考えただけでも鳥肌が立つじゃ無いですか。それをやらせてもらいまして。しかも、カメラマンさんは当然ですけど何枚も撮るわけですよ。で、撮ってる間にちょいちょい声かけをしてくれるわけです。「果たしてこのリズムに乗って、微妙に角度とか変えて言った方がいいのだろうか…でも役者でもない自分がいきなり慣れ切ってる感じでそれやったら逆におかしくないスか…?あ、でもこのカメラマンさん的にはそうした方がバリエーションが撮れるから、助かるかも知れないし…」と考えながらほぼ不動、引きつった笑顔でいるうちに「はい、OKです」で写真撮影は終わりました。まだ今後も写真アリの取材は続くのですが、少なくとも本作の宣伝中に慣れることはどうやらなさそうです。

作品を再発見する期間

完成報告会見前(執筆時)の現在としては、決してまだ多数の取材を受けているわけではありませんが、それでも徐々に形になってきているような気はします。こうしてnoteにダラダラと当時のアレコレを書き連ねているのも、実のところ考えをまとめる上で助かっていたりします。

そんな中で思うのは、この「宣伝」という期間は自分にとっても、『AWAKE』という映画を再発見する期間なんだなあ、ということです。撮影時のあれやこれやも、撮影直後以外では今ほど克明には思い出せていなかったですし、また各キャストのインタビューなどを通してこの作品に対して彼らがどう考えていたか、というのもこれまで以上に詳しく知ることができたりしています。また、ライターさん、編集者さんなどを含め、この期間に初めて映画を観て頂いた方々は、いわゆる「内輪」のスタッフではありませんので、そういう感想を持ってくれるんだとか、そういう見方もあるのか、と自分自身気づきになるような言葉を幾つも頂けました。

おそらく、公開時はそれがさらに広がって、自分でも気づけていない、この作品のさらに新しい点に気づくことができるのかもしれません。当然良いレビューばかりとは限りませんので、期待半分、怖さ半分、なんですけど。

はじめてのきしゃかいけん〜完成報告会見に着ていく服がない

そして!これを書いている12月6日現在、完成報告会見まであと2日となってます。人生初の記者会見ですどうしよう。先日進行台本なるものが送られてきまして、いわゆる映画の完成イベントらしい、MCの方がどう話して〜みたいなやつなのですが、今まで気楽に観る側にいたのが、いざ当事者になるとこんなにキツいものだとは!

そうして先日、これを見越してすでに服は買っています。昨日散髪にも行きました。準備は万端!ということで、次回は『AWAKE』宣伝の一番長い日、完成報告会見報告をしようかな、と思います。