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#6 映画『AWAKE』キャスト回想録1 〜吉沢亮編〜 前編

※このnoteは12月25日全国公開の映画『AWAKE』の監督・脚本をした山田篤宏が色々気を使いながら書いています

のっけから宣伝ですが、いやこのnote自体が宣伝を主眼としているんですがそれはさておき、先週より『AWAKE』のムビチケ(前売り券)が発売しています。劇場でお買い求めいただけますし、ネットでも買えます。

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どうぞよろしくお願いいたします。

さて、今回は最も待ち望まれていた内容な気もします。ビクビクしながら書きますね…。『AWAKE』の主人公である清田英一役を務めた吉沢亮さんの話です。絶対長くなるので前後編に分けます。

主人公は"誰"だ?

第二回のnoteを読んで頂ければわかると思うのですが、AWAKEのメインキャスティングは2017年7月末に木下グループ新人監督賞グランプリを頂いてから、2018年12月の間までに概ね行われています。キャスティングに際して、まずは主人公の「清田英一」という青年を誰にするか?それが当然最も重要視され、一丁目一番地に決めないといけないことでした。

その際に必要な作業は、改めて自分が創作したキャラクターを"見極める"ということです。脚本執筆中は自分一人のイメージでキャラクターが作られていたわけですが、それを現実の人間にある種落とし込む作業が必要になる。ハッキリ記憶しているわけではないので、もしかしたら後付けで思い込んでいるのかも知れませんが、確かその時点で考えていたのは「ギーク系」「変人」「早口」「人から好かれようとしない(人に興味がない)」「自分の興味対象にのみ脇目も振らず没頭する」みたいなキーワードに集約される人物像だったと思います。

また、もう一つ考えたのは、これは現在でもそうなのですが将棋ってやはりある種「脳のスポーツ」的な要素があるので、最も強いのは20代とも言われてるんですね(めっちゃ例外ありますが、将棋界全体の認識ではそうなってると思います)。ですので、『AWAKE』に関してもそういうフレッシュなキャスティングでいきたいな、という気持ちがありました。これは、結果的に『AWAKE』の青春映画としての側面を思い切り補強する要素となりました。

そして、「直近の将棋関連映画への出演がない、もしくは限定的なこと」も、強く意識しました。これは単純に観る方に既視感を与えたくなかったからです。

まとめますと、「直近の将棋関連映画への出演がない、ギーク系の人物像に合う若手俳優」、そんな方を見つけて、出演のオファーをしないと、ということになります。

ただ、この時点で問題が一つありました。それは僕が若手俳優を全く知らなかったということです。

若手俳優を全然知らない問題

というのは、最近でこそそんなことないんですが、自分元々どちらかといえば”洋画派”でして、邦画はそんなに観ないんですね…。テレビドラマというかテレビ自体もそもそもほぼ観ないので…。そして若手俳優が多数出てくるタイプのメジャーな邦画ともなると、そもそも30代も半ば過ぎ(当時)の中年男性として日々生活していると、生活動線上に全然そういう映画の情報も入ってこないわけですよ。

第二回であったように映画会社に勤めていた2012年までは、まだ仕事柄邦画も観たり、俳優に関しても色々情報が入ってきたりとかがあり、一般の人よりも全然詳しかったとは思うんですが、転職して以降は若干映画業界から離れてしまったということもあり、ほぼ全く観ておらず。結果、旬な若手俳優を全然知らない、という事態に陥っていました。

で、そこからその近年でヒットしたり評価が高かったりした日本映画を片っ端から観まして、同時に知り合いにいい若手俳優を知っているかどうかを聞きまくりました。そんなとき、よく一緒に仕事をしていた、今回の映画でも撮影を務めた今井哲郎さんが、同じ現場で仕事をしている最中に、こう即答したのです。「吉沢亮以上にうまい役者を僕は知りません」

「吉沢亮がすごいらしい」(by 2018年春頃の俺)

今井さんは若手俳優が出るドラマ作品等も多く手がけられてまして、僕なんかとは比べものにならない数の若手俳優を見てたわけですが、突如出た吉沢亮の名前。

実はプロデューサーからもその少し前にその名前を聞いていたので、異口同音に出たということそのものに驚きまして、早速今井さんが撮影もやった『トモダチゲーム』を一気見、そして全然別系統の作品である『オオカミ少女と黒王子』を観ます。ただ、『トモダチゲーム』ではハッキリと演技力の高さはわかるものの、なんせアッパーな役、『オオカミ少女と黒王子』はオタクで根暗な役ではあるけれども、イケメンゆえに、またこの映画のジャンル的(ラブコメです)にも果たしてギーク役は?というところだけ判断がつかずにいました。そんなとき、プロデューサーから参考に勧められて観たのが『リバーズ・エッジ』です。

『リバーズ・エッジ』

吉沢くんは『リバーズ・エッジ』ではいじめられっ子の「山田」を演じています(話逸れますが「山田」姓の者としてフィクションにおける「山田」姓の使い方には一家言以上あります。この場合の山田は…とかやってると長くなるのでいつか)。『リバーズ・エッジ』といえば伝説的漫画家の岡崎京子さんの作品で、僕の世代とかはまさにドンピシャでして、高校時代は友達からその漫画が回ってきてなんか誰もが絶対読んでた、みたいな作品ではあります。まぁそれは置いておいて、とにかく暗ーい暗ーいキャラです。セリフもそんなにはない。

で、これは僕の考えなんですが、暗い演技、特にセリフがない演技って一義的には簡単な部分があるんじゃないかと思います。やはり喋らなかったり動きがそもそも少なかったりすると、バレる要素が少ない。ただし、翻ってその暗い演技で「印象に残るお芝居をする」となると、逆にめっちゃ難しくなる、というか。やはり、演技力が乏しい人がやると、どうしても「作ってる感じ」がしてきちゃうものです。

ところが、『リバーズ・エッジ』の吉沢くん演じる山田にはそういうところが全然なかった。全く違和感がありませんでした。イケメンなのに。突然ですがキン肉マンてマスク取ると顔がめっちゃ光るじゃないですか。それを普段はマスクで抑え込んでるわけですが、ああいう感じで、イケメンは暗い役を演じる時に自分の顔の輝きを抑え込んでるはずなんですが(※個人の見解です)、その抑え込み要素、マスクのつなぎ目みたいなものが全然見えなかった。後の撮影時にそれは彼の「目のお芝居」に大いに依るものだということを僕は知るのですが。

若手人気俳優にオファーを出す

さて、言い方はアレですが的は決まったわけです。続くアクションとしては「出演オファーを出す」ということになります。これはもう本作に関しては脚本はあるわけでして、プロデューサー経由で企画書・脚本をお渡しして検討してもらう、という流れになりました。何しろこちとら新人ですから、「あぁ、あの監督ね」みたいなアドバンテージはないわけですよ。もう純粋に脚本勝負だったと思います。

で、結果はご承知の通りとなりました。時期はうにゃっと濁しますが、2018年春〜夏頃のことだっと思います。

吉沢研究時期

さて、キャスティングが決まって以降で制作が始まる前のある一定の時期、僕は吉沢くん出演作品を片っ端から観まくる、「吉沢研究」をしていました。それこそ『仮面ライダーフォーゼ』から観ました。フォーゼは何が良かったって、作品全体が僕が大好きなアメリカ学園映画をモチーフとしてるとこですよね…みたいな話は横に逸れまくってしまうので自重するとして。

『AWAKE』の公式HPにも記載されている僕のコメントに、吉沢くんの"陰"の演技の引き出しに関して触れてますが、そういうタイプのとっかかりになりそうな役を探す、または"陽"の演技でもそういう瞬間を探す、みたいなことをしてました。ちゃんとメモとかとって観てましたからね。例えば『ぼくは麻里のなか』だと確かに暗めの役なんだけど、設定的には普通の若者なのでもっと「普通じゃない」若者かなとか、そんな感じで。あとは『サバイバル・ウェディング』めちゃめちゃ面白いなーとか(感想)。そんな中では作品としても好きだった『恋する香港』というドラマで共演していた馬場ふみかさんを知る、などの収穫もありました。てか今調べると『恋する香港』の役も山田なのか…。

そして、この作業の反動として自分の中で「吉沢亮」という俳優の存在がどんどん大きくなっていきまして、だんだん緊張して来る、ということがありました。当時の吉沢くんは若手人気俳優ではありましたが、映画やドラマに詳しい人は知っている、という立ち位置だったと思います。それが僕にとっては「最近観てる作品に一番出てる人」になってるわけですから。

『なつぞら』〜『キングダム』〜そして邂逅へ

そうこうしているうちに2019年も明けまして、遂に明確な撮影時期が近づいて来ます。それすなわち、あの吉沢亮と対面する日が近い、しかも監督という立場で!どうしよう!ということでもありました。そんな中で年明けからはNHKの朝ドラ『なつぞら』が放映を開始しておりまして、遂に僕の親ですら吉沢亮の名前を認識(一応言っときますと役名は山田天陽)、吉沢くんの人気者っぷりがさらに右肩上がりになっていきます。

そして4月。プリプロダクションが始まっている中、遂に吉沢くんと顔合わせの予定がセッティングされます。ちょうどその頃公開されたのが、言わずと知れた『キングダム』でした。超メジャー作品でしたし、本人に会う前に観とかないと、ということで映画館に足を運ぶ僕。ただ、この時、正直『キングダム』の原作漫画を読んだことが無かったんですね。で、映画が始まって15分程度で吉沢くん死んじゃった…。いやーうん、確かに15分いい演技してたしなー。オーケーオーケー、まあ観といて良かった、と思ったのもつかの間、それ以降の圧倒的な活躍は映画をご覧になった方はもちろんわかっているところと思います。映画館を出て、率直にこう思いました。「やべえ、スーパースターじゃん」。

そうして、遂に吉沢くんとの初対面の時がやってきたのでした。

次回に続きます。