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#5 新人監督目線で見た、映画業界のしきたりあれこれ

※このnoteは12月25日全国公開の映画『AWAKE』の監督・脚本をした山田篤宏が結構四苦八苦しながら書いています

いきなりですが、こちらの写真をご覧ください。

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これ、「クランクイン弁当」というやつでして、クランクインした時の昼のお弁当で、"のし"が付いています。こういうのがあるというのは知らなかったので、感激して写真に撮ってしまいまして、”のし”そのものも綺麗に持ち帰ってまだ保管してあります。

というわけで、これに限らず撮影時には細かな「しきたり」というか「作法」というか、もっと言ってしまえば「文化」のようなものに触れることがいくつかありました。今回はそれを幾つかご紹介できればと思います。

・山篤組の誕生

まず、何はさておき"のし"にも記載されている「山篤組」の話からせねばなりません。映画を制作するチームのことが「○○組」と呼ばれたりすることは結構知られてることかと思います。僕も『AWAKE』を撮る前からそれは知ってましたが、「まぁあれは愛称みたいなもんで、一人の監督を代表してそこでチームを作るからそう呼ぶんだろう」くらいに思ってましたが、全然違いました。純粋に、制作の「機能」として「○○組」と呼称します。

機能というのが何かと言うと、要するに映画のスタッフは様々な会社の人であったり、フリーの人であったりが集まって仕事をするので、その中でその組織を総称する呼称があった方が便利、ということです。冒頭の「のし」もその一例ですけど、細かいところとかだと、外部の方に対して「『AWAKE』の制作を担当しております△△で〜」という時よりも、「○○組の△△で〜」と言ったりする方が確かに圧倒的に早い。

ただ、なんでそもそも「○○組」という呼称をわざわざするんだろう?建設会社っぽいんだろう?というのはこれを書くにあたり調べてみたんですがすぐには出てきませんでした。今んとこ「伝統」という言葉で考えておきますが、例えば名字が桜さんとかだったら保育園みたいな感じになっちゃわないかとか、山田じゃなくて山口だったら仁義なき感じにならないかとか、余計な心配はしてしまいます(山口姓の監督は実際いらっしゃいますが)。

で、なぜ山田組ではなく、山篤組になったのかと言うと、それは制作部のスタッフ米田さんの発案によるものです。というのも、制作部は圧倒的に外部に向かって自分の組の名前を呼称する機会が多いんですね。そしてロケハンの時などに連絡をする、各地のフィルムコミッション(地域の団体でロケ地などの紹介をしてくれる)の担当の方々は、映画制作に精通していることも多く、それらの方に「山田組で〜」と話した途端に緊張が走る!と。電話先の皆さんは「山田組」と聞くとまず真っ先に『男はつらいよ』『幸せの黄色いハンカチ』『学校』『たそがれ清兵衛』『遥かなる山の呼び声』……などなどで著名な大監督を連想してしまう、という。

意外といそうで実はそこまで超多くはない山田姓(全国12位)ですが、まさかこんなところでそんな有難い被り方をしてしまうとは。自分は『男はつらいよ』シリーズ大好きで全部観てますし、いやそれ関係ないんですけど、新参者として謹んでこちら発信による無駄な混同をお避けした次第です。

・お祓い

あとは、順不同になりますが撮影前はスタッフ・キャストが参加しての「お祓い」が行われました。無事に撮影を遂行できますようにという安全祈願のためのものでして、別にホラー映画じゃなくても慣習として行われています。以前ある中国映画のクランクインに立ち会ったことがありますが、その映画ではクランクイン当日の撮影前に、現場である種の「祈祷」をしていました。この辺りはある種アジア的な伝統なのかも知れません。

・現場差し入れ&コール

コロナ禍の昨今では自粛の流れになっているという噂も聞きますが、現場には様々な方から様々な差し入れ(お菓子や軽食)が届くことがあります。そういった差し入れは、「○○様より差し入れ頂きました」と書かれた紙と共に、「お茶場」と呼ばれるキャスト&スタッフ用の飲み物等が置かれた一角に陳列されます。

そして、並べられる直前に、大抵は制作部から「○○さんより○○の差し入れいただきました〜!」と大きな声で現場にコールが行われます。


https://www.youtube.com/watch?v=brQ9mXcm7Gc

※こちらは撮影最終日に試しにコールをやってみて少しも声が出ていない僕。最初に「みなさ〜ん!」と声を出すセカンド助監督さくちゃんとの声量差をご堪能ください。(動画埋め込もうと思ったらなんかできなかったんで、リンクにて。後々改善します)

・集合写真

メインのキャストとスタッフが総出で撮る集合写真です。これも、撮影の日程の終盤に公式のイベントとして組み込まれます。映画撮影の場合はそのシーンに出てこないキャストはその日は当然現場にいないわけでして、メインのキャストがある程度揃うタイミングを見越して、香盤と呼ばれる日々のスケジュール表に「この時間で撮ります!」という形で予定されます。

日々のスケジュールに入れる、というのは忘れないように、というのもありますが、集合写真を撮ったりしてしまうと「終わったぜ!」感が出てしまうというのもあって、「その先現場が続かないかどうか?」「移動やバラしやロケ地の時間が大丈夫か?」などなど、意外とどこに入れるかは繊細だったりします。また、この集合写真のために「山篤組 AWAKE   日付」と書かれた特製のボードなんかも作って頂いたりしました。

・オーケー!ということは…

様々なメイキング等で見たことがある方も多いと思いますが、一人の役者さんの出番が全て撮り終わることを「オールアップ」と呼びます。その直後、彼/彼女たちに花を渡すのも監督の役目です。この時にキーワードとなるのが、現場を回しているセカンド助監督の「…ということは」です。

順番でいうと、まずその役者さんの最後のカットを撮ります。監督が「オーケー」を出します。それを聞いてセカンド助監督が「今のカットオーケー!」とカメラ前で伝えます。そして「…ということは…」で一間おいて、「○○さん、今のカットでオールアップになります!」という流れになります。そこでおもむろに花を手にした監督(僕)が登場、ということになり、定番では役者さんに一言コメントを頂いて終了、という形になります。

面白いなと思ったのは、この「花」なんですが、なるべくオールアップのその瞬間を迎えるまでは役者さんに見せないように手配される、という点です(そりゃそうなんですが)。ですので、監督をしているこちらからすると、ラストのカットの流れをきちんと見つつ、同時に花が今どこにあるか?手元に来ているか?またはどのタイミングで来るか?などをなんとなく把握しながら進めることになります。

順番でいうと、(よし、あの柱の陰で花が用意されているなと確認して)まずその役者さんの最後のカットを撮ります。(良かったら)「オーケー」を出します。それを聞いてセカンド助監督が「今のカットオーケー!」とカメラ前で伝えます(という間に花が手元に来て、なんとなくハッキリ見えないように後ろ手に持ったりします)。そして「…ということは…」で一間おいて、「○○さん、今のカットでオールアップになります!」を聞いて、おもむろに花を手にした監督(僕)が登場、ということになります。

これは映画に限らず多くの映像制作現場では行われることですので、当然受け取る側ももらえることは恐らくわかっていると思うんですが、そこで隠す隠さないという気遣いをし合うのがやっぱり文化的・人間的で楽しいですよね。

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※撮影最終日は監督の僕も花を頂くという手厚さ。流石に「もらえるだろ」とは思ってませんでした…。(渡してくれているのは撮影の今井さん)


いかがでしたでしょうか?今回は「AWAKE」の制作現場で感じた映画業界の「しきたり」的なアレコレをご紹介しました。と、唐突にアフィブログっぽく締めますが、制作・撮影に関する「新人監督は見た」シリーズは今回で一区切りにして、次回からは「キャスティング」に関して書いていきたいな、と思っています。