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#7 映画『AWAKE』キャスト回想録1 〜吉沢亮編〜 後編

※このnoteは12月25日全国公開の映画『AWAKE』の監督・脚本をした山田篤宏が割とアクセス数に一喜一憂しながら書いています

前回に続きのっけから宣伝ですが、『AWAKE』のサントラの発売が決まっております。

語彙力の少ない賞賛の仕方を許してもらえるならば、音楽の佐藤望さんは天才です。『AWAKE』は相当彼の音楽に後押しされていると思います。試写等で「音楽が良かった」と感想を頂くとすごい嬉しい…。「観てから聴くか?聴いてから観るか?」みたいなのはあるとは思いつつ、是非ご関心をいただけましたら、と。

そしてお待たせいたしました。海外ドラマばりの最高の引きで終わらせました前回の続きです。

「吉沢亮がいる」

boketeの有名なネタ、コンピューターを発明したときのフォン・ノイマン博士の言葉じゃないですが、顔合わせのときに会議室のドアを開けて、こう思いました。「あ、吉沢亮がいる」。他の感想を持ちようが無かったんだからしょうがない。おー、吉沢亮だ。喋ってる。動いてる、的な。

そこからは、こちらとしてはできうる限りの監督ヅラをしてたような気がしますが、正直相当緊張していたのもあって(そこはそもそも初対面てのもあるし、向こうもそうだったのかもしんないですけど)、記憶が定かではありません。全体としては、役の方向性とかイメージの共有をして、好きな映画の話とかして、あとは将棋盤と駒を持って行ってたんで、軽く指し手のやりとりとか、そういうことをしたような気がします。また、このタイミングで本編中のあるキーとなるシーンの話をしたらしいのですが、それは先日、本人から言われるまでこの時点でいきなり言ってたってことはすっかり忘れていました。この話はどこかのインタビュー記事かなんかで出るかもしれません。

撮影が始まる前に顔を合わせたのは、この時と、将棋指導の時。そして、撮影直前に予定させてもらった「リハーサル」と、衣小合わせ、そしてこの間書いたお祓いの時になります。

圧倒的だったリハーサル

なんか、小学生の呼びかけっぽい小見出しになってしまったが、まあいいか。リハーサルって何やるの?ってことですが、これまた正解はよくわかってないんですが、会議室などで主要なシーンを幾つかピックアップして、読み合わせしたり、実際に場所を想定して動きを考えたりする作業です。割と僕は好きな作業なんですが、作品や監督によってはやったりやらなかったりするようです。確かタランティーノが「絶対やったほうがいい」みたいなことを言ってたのを読んで以来、僕はそう思うことにしています。楽しいし。

とはいえ、顔合わせにせよ、将棋指導の立会いにせよ、そのときはまだ「吉沢亮がいるなぁ」でもなんとかなるんですが、さすがにここからは監督として、演出家として対峙しないといけないことになります。自分としても始める前に「ビビってても仕方ない」とスイッチを入れて挑む感じになりました。実際声に出して言った記憶があります。そして結論からいうとこのリハーサルでの吉沢くんは凄かった

例えば、こういうシーンがあります。

○シーン70  大学・人工知能研究会(※一部抜粋)

英一「……コンピューターが俺を起こしてくれたのかもしれない」
磯野「……」
英一「アウェイクは、どうかな?……プログラムの名前」
と、磯野はカタカタとキーボードを叩き、
磯野「AWAKE。目がさめる。眠りから起きる。記憶を呼び起こす……覚醒」
英一「……ダサいかな?」

これ、主人公の英一が自分が作ったプログラムに『AWAKE』という名前を付けるシーンです。しつこいですけど、今回の脚本は僕が書いてるわけでして、そうするともう少なくとも何百回とこのシーンを読んでるわけです。で、「ここはこう喋るんだろうなぁ」というイメージは当然相当出来上がってまして、もはやちょっとやそっとじゃ揺るがないわけです。が、しかし。

このシーンをやったときの吉沢くんの台詞まわし、歌で言うと譜割り、みたいなことなんですかね、それが自分が想定してたモノと違った。そしてそっちの方がずっと良かった。このシーンは一番それがわかりやすく出たシーンでしたけど、そんな風にどのシーンもどう自分として演じるか、普通こうだろうけどあえてこうやったらどうか、みたいな創意工夫に溢れてまして、そんな吉沢くんと英一というキャラクターを一緒に作り上げていく作業は、なんというか"超楽しかった"です。

現在インタビュー等で撮影時の苦労を聞かれることはままあるのですが、こと吉沢くんに関してちょっと「んー、苦労ねー…」と考え込んでしまうのは、このリハーサルでお互いのイメージがかなり噛み合ったのが大きかったのではないかなぁとよくよく考えると思ったりします。じゃあ、そのシーンはどんな風に言ったか?…ってのは是非実際にご覧ください(宣伝ですから…)

吉沢亮を冴えなくしろ!な衣小合わせ

あと、面白かったのは衣小合わせ(衣装と小道具合わせなのでこう記載します、というのを初めて知りました)です。我々の普段の生活でもそうだと思うんですけど、衣装とか小道具って見た目の問題以上に、実は「それを身につけている人がどんな人か?」というのを表現していたりします。なので、キャラクターを固める上ではとても重要な工程です。

分厚めのオブラートに包んで言いますが、将棋関わらず何かに熱中している方ってあまり服装に関して無頓着なことが多いじゃないですか。英一というキャラもそんなわけで服装には無頓着、むしろ自分で選んでないんじゃないかくらいの設定で、会場にはズラリと絶妙にくたびれた洋服・メガネ等々が並びまして、次々とそれが吉沢くんに着せられていきました。この時も「着こなしちゃダメだよ」ってのがみんなの念頭にありながら、かといって変な感じになりすぎるのもダメだし、と割とあれやこれやの中で笑いの絶えない作業となりました。

結果パーカーを主軸とするスウェット姿が基準となったんですが、「うん、英一だね」と僕とそして本人を含めた関係者一同のイメージが実体として最初に見て取れるという、面白い作業だったなと思います。

そして撮影へ

さて、そうして撮影が始まったのですが、撮影中の話はそれこそ今後各メディアで披露されるだろうと思うので、ここで詳細に述べるのは控えようかなと思います。

一つだけあるのは先日多方面で取り上げていただいた「撮影中は吉沢くんがカッコイイということを忘れていた」という僕の言葉です。これ、さもエピソードくさいですが(だから取り上げていただいたんでしょうけども)、撮影後の編集の段階で、一度繋いだ編集を観る「ラッシュ」と呼ばれる工程があるんですが、その時に初見のスタッフの感想「吉沢さんカッコいいですね…」を聞いて素で「エッ?」てなりました。マジでそのくらい忘れてたんですよね…。

撮影以後のこと

ポスプロ(編集とかの撮影後の作業)の話は今度ちゃんとするとして、編集作業を比較的のんびりと続けていた2019年夏〜秋頃だったか、衝撃的なニュースが入ります。それが、吉沢くんがNHK大河ドラマ『青天を衝け』の主演を務める、というもの。スマホでそのニュースを観て、速攻でプロデューサーにLINEを入れました。「…すごい人とやってしまったんだなぁ」みたいなことを伝えた気がします。前項から続いていた右肩上がり現象にはまだまだ全然上があったのです。

そうして、撮影以降に初めて再会したのが昨年12月にあった初号試写です。以前も書きましたが、キャストやスタッフ等の関係者が最初に「完成品」を観るのがこの初号試写です。これめっちゃめちゃ緊張するんすよ…。だって、来るほとんどの人は脚本読んでるわけじゃないですか。そんで、人によっては現場でどんな画が撮れてるのかある程度見てるからわかってるわけじゃないですか。そんなの各々の中で「理想形」がもう出来上がってるはずで、そんな中見せるわけですから。現場でもやたら「編集楽しみにしてます」と挨拶のようにキャスト&スタッフに言われまくったってのもあって、その一言一言が重石となってのし掛かってきてたわけです。

で、そういった中でも主演俳優が果たして作品をどう受け止めてくれるか、っていうのはそれはそれは特に気になるものなんですね。そして上映後……吉沢くんは「面白かった」と言ってくれました。ただですね、僕はこの時それはもう柱でも手こずるレベルの疑心暗鬼の権化となってましたから(某作まだ読んだことないですが)、「まーそれは関係者だらけのこの場ではそう言うしかないだろう…でも少なくともそう言ってくれるってことは嫌いじゃないんだろうな」くらいに内心は受け取ってました。が、しかし。どうやらマジっだったっぽいということを、それから半年以上経った情報解禁のタイミング、下記のニュース等で思い知ることとなりました。良かったー。

そうして宣伝活動も活発化して来た先日。取材で初号ぶりにお会いしました。撮影時の姿・格好じゃないせいだけではないと思うんですけど、なんかもう後光が差してるように感じました。それを見て、僕はまたこう思ったのでした。

「あ、吉沢亮だ」

…ちょっと綺麗にまとめすぎましたかね?だって思いついちゃったので…。

さて、このキャストシリーズはもう数回続ける予定です。次回は主人公・英一の宿命のライバル、棋士・浅川陸を演じた若葉竜也編です。