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#4 新人監督目線で見た、映画監督ってどんだけ偉いのか問題

※このnoteは12月25日全国公開の映画『AWAKE』の監督・脚本をした山田篤宏が書いています

今一歩noteの仕様がわかっていないのですが、プロフィール欄にヘッダー画像を入れた上で、各記事のヘッダーに同じものをいれるとクドくてですね…。とりあえずプロフィール(マイページ?)のヘッダーは見送っています。

・とにかく"偉い"映画監督

閑話休題。前回の続きですね。『AWAKE』の制作を通して、商業映画制作にはかくも多岐に渡ったスタッフが多数いるんだよ、そのそれぞれにアレしてコレしてと指揮をする映画監督って「こんな"偉い"んだ」と思ったのは大きな発見かつ驚きでしたよ、というところからです。

前にも言ったように、自分は映像ディレクターとしての仕事もしてまして、低予算の映像制作の仕事では、例えば制作部がやるロケ地探しとか、サード助監督がやる小道具探しとか全部自分で普通にやったりするわけですよ。記憶に残っているヒドい条件では、とあるミュージックビデオを撮るという話が撮影予定日の9日前に来て、そこから一人で内容考えつつスタッフ探してロケ地探して小道具集めてとかやって撮り切る、とか。

それが、『AWAKE』の場合、例えばロケ地探しでは制作部から「監督、ちょっとお時間よろしいでしょうか」と声をかけられるところから始まります。「はい、いいですよ」というと、綺麗に配置されてプリントアウトされたロケハン写真が出てくる。その時点で片道2時間を超えるようなロケーションを幾つも事前調査し、写真を揃えてくれています。で、プレゼンの順番も恐らく考えられていて、最初から「これが一番!」というのを見せるわけではなく、「ここは、ここがいいと思うんだけどこういう条件が…」みたいな「捨て物件」「イマイチ条件」をいくつか咬ませた上で、恐らく制作部が思う一番いい写真が出てくる。そこで非情に「いやーちょっと」というとやり直し、となるわけです……いや別にこちらも良かったときはいいって言いましたけど……なにこの違い。

・企業でいうと部長クラス、管理職ポスト

その昔、何かのインタビューで読んだことがあるんですが、とある映画監督が「もし映画をやらずに一般企業に勤めていたら部長くらいにはなってた」みたいなことを言ってたようないないような、その気持ちもわかったというか。要するに映画監督は役割としては完全に「管理職」なんです。自分で動く、というよりは人に動いてもらったものを"判断"する立場。僕は映像関係ではありますがずっと会社員なのでなおのことそう思います。先日、取材の際に「監督の立場って部長っぽいですよね」と言ったら「もっと偉くない?」と言われてしまったので、中小企業の社長か、大企業の部長クラスはあるんじゃないかなーという(自論は崩さないスタイル)。

これは自分自身の巡り合わせなのか性格なのか力量なのかによるものなのですが、そもそも「部下がいる」立場で仕事をしたことがほとんどと言っていいほどなかったので、この状況に新鮮さがありつつ、「ここで調子に乗ってはいけない。ここで調子に乗ってはいけない」、と正直警戒心マックスになりました。

・スタッフルームに長居しづらい

で、管理職なんで例えばこういうことがありました。今回のような規模の映画だと、通常「スタッフルーム」というものが準備され、そこを臨時のオフィスのように使用して撮影準備までの期間を過ごします(今はコロナになってしまったのでリモートワークみたいのが進んでる気もしますが、どーなんですかね)。ただオフィスと言っても出退勤時間が決まってるものではないので、割となんとなくの時間に行って、作業があればそこで作業をし、無ければ帰る、というのが普通なんですが、たまーにふと感じるんですよね、あれ?自分がいるともしかして帰りづらい?みたいな空気を。これは以前に別の組の話で監督がずっとスタッフルームにいて他のスタッフが帰りづらい、という話を聞いてたから、疑心暗鬼になりまくってたせいかもしれませんが。

なので、割とサラッと帰るようにはしてたんですが、これまたこれでスタッフルームに顔を出さなすぎるのもチームワークが生まれづらい気もする。「最近の新人監督は飲みにもいかず冷てえな」みたいな陰口を叩かれるかもしれない…。考えすぎかもですが、そんなような板挟みの心境を経験したことはなかったので、「なるほどそういう気苦労も世の中にはあるのか」とか勉強になりました。部下がいる人には当たり前なのかも知んないですが。 

・インカムに入ってるという注意喚起

また、これは撮影中の話なんですが、スタッフ同士は大体がインカムをつけて現場の進行をやり取りしてるんですね。ただし監督は通常つけてません。それは現場の細かな進行(もうすぐ昼になるので弁当用意してとか)はお任せになってるからなんですが、たまーにインカムつけた方が便利なシチュエーションてのがあって、実際一度インカムをつけたんですよ。その時に、スタッフ間の「あと何カット?」というのに普通に「3カットです」と答えたら異様に恐縮されて。「今日監督インカム付けてます」とアナウンスされるということがありまして。

これは確かに逆を返せばわかる話なんですけどね。別に陰口叩かれてたとは思わないですけど、「監督がいるとしづらい話がある」というのは全然わかりますし、自分がその立場にいるというのがこれまた管理職!という感じで衝撃でした。

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※この人インカムつけてない、がわかりやすい写真。撮影部・照明部用にインカムつけてるってのもあるんで一枚岩じゃないんですが。

・監督が楽しそうな方がいい

と、いった中で意外で驚いたのが撮影前にプロデューサーに言われた「監督がどれだけ楽しんで撮影しているか、ノッているかをキャストとスタッフは見ている」という言葉です。なんせ自分は監督志望でしたから、他の現場などで別の監督が楽しんでるのを見て「楽しい」と思ったことが考える限り一度もないんですよね。でも先日も取材の時にキャストの一人から「監督が楽しそうにしてて安心だった」みたいなニュアンスの言葉を聞いて、あぁ本当なんだ、と思った次第です。や、そもそも別にプロデューサーの言葉を疑っちゃないんですが。

そんなこと言われた日には、打算的に考えると楽しむ姿を見せるのが一番現場にとっては「効く」わけで、辛くてもなんでも楽しそうな表情を作ったりした方がいいじゃんとか思ったりしなくもなかったですが、いざ撮影が始まるとそんなこと考えてる余裕が全然なかったですね。そしてメチャメチャ楽しかった。それだけは胸を張って言えます。

次回は、今回僕が学んだ商業映画制作における「しきたり」のアレコレを紹介する予定です。