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#8 映画『AWAKE』キャスト回想録2 〜若葉竜也編〜

※このnoteは12月25日全国公開の映画『AWAKE』の監督・脚本をした山田篤宏が色々工夫しながら書いています(という工夫のない文章)

『AWAKE』のTwitter投稿キャンペーンが展開されています。

抽選でオンライン試写会やムビチケが当たります。11/30(月)いっぱいの締め切りなので、アカウントお持ちの方は是非奮ってご参加ください。僕は「ツイッター怖い怖いヒィ」と思って自分のやつは結構前から完全クローズドにして読むだけにしてますので参加できないのですが(お前しても意味ないだろ、ってのもある)、最近AWAKEしてるのは釣りです。どうでもいいですかね…。

さて、今回は『AWAKE』の主人公・清田英一の宿命のライバルである、棋士・浅川陸役を演じてくれた若葉竜也さんに関して予告通り書きます。

重枝修正_若葉竜也

※考えてみれば英一の回の時も写真入れれば良かったんですが、話の流れがなんかそうじゃなかったんで…

若葉竜也という役者

若葉竜也、という名前を知ったのは、第六回で書いた近年の日本映画を片っぱしから観る時期、に観た『葛城事件』での圧倒的な熱演です。あの映画を観て彼の演技に感服しない人はいないんじゃないでしょうか。僕の中にも当然、その名前は深く刻まれました。

さて、主人公が決まってじゃあライバルはどうするよ?ってなったときに、求められる要素は数多くあるんですが、一番は主人公とのカップリングの問題かな、と思います。恋愛映画なんかでもそうですけど、その二人が並んだ時に説得力や、期待感、ケミストリー(化学反応?)みたいなものが出るかどうかは、各々の役者のそもそもの力量と等しく大切だったりしますし、じゃあ力量さえあればいいのかって言ったらそうでもなくて、こればっかりは相性というか、その一言で済ますのはあまりに雑なんですが、言語化しづらい何かの要素だったりします(わかって)。

浅川陸という役柄は、英一と同じく、ある意味では将棋に囚われた人物ですが、この二人のキャラクターの対比が大切だなとも思っていましたので、脚本執筆中も英一と比べるとずっと「社交的」「(天才なんだけど)一見常識人」そして「棋士の説得力」みたいなことが必要なんじゃないかな、と思っていました。吉沢くんのときと同じ理由で「直近の将棋関連映画に出演していない」もやはり意識しました。

あとは、吉沢くんとガチンコ対決ができる強い演技力が必須でした。改めて読んでみると、この浅川陸という役、本当にセリフが少ないんですね。英一より全然少ない。となると、これも第六回に書いた「セリフが無い演技で試される演技力」の法則が出てきます。そのようなことを総合しまして、是非彼にお願いしたい、とオファーしました。

栗尾軍馬さん

無事出演を快諾いただいて、それそのものも嬉しかったのですが、ここに我ながら素晴らしい幸運がありました。というのは、若葉くんの幼馴染に栗尾軍馬さんという「元奨励会員のアマチュア強豪棋士」の方がいまして、彼の存在もあり若葉くんはそもそも「棋士の役をずっとやりたいと思っていた」そうなんです。そんな偶然あります?って感じなんですが、そのお陰もあり、若葉くんの陸役の役作りは非常に熱心なものになりました。

それがどういうものだったということを話す前に、栗尾軍馬さんに関して少々お話させてください。結果、栗尾さんには若葉くんのサポートのみならず、『AWAKE』そのものの将棋指導・棋譜制作として広くご協力を頂きました。このことは『AWAKE』制作全般における最も幸運な出来事の一つだったと思っています。脚本の細かなニュアンスの部分だったり、本編中の棋譜の扱いだったり、それこそそういったことを問い合わせる際の正しいルートや線引きのあれこれ(誰に聞けばいいの?とか、これは監修してもらうべきなの?とか)など、もちろん一部は棋士の先生方にもご協力いただいてるのですが、さらに細かな部分を栗尾さんに気兼ねなく聞けたことによって、我々が受けた恩恵は数限りなくあります。

緊張のステップアップ

で、出演を受けて頂いたものの、若葉くんに関しては吉沢くんとはまた違った意味で緊張を強いられることになります。まずあったのは、出演をご了承頂いてからプロデューサーから頼まれた「過去の作品を観たいとのことなので資料をください」という連絡。第二回を読んでもらえればわかるんですが、自分、「映画」って意味では本当に過去作が無くて…しかも唯一ある長編は10年以上前の作品ですし、そもそもあちらラブコメなので、渡したところで今回の話とまるっきり違うしなー、というのもあるし、あとはやっぱ自分でも昔の作品て嫌いってことはないんですけど恥ずかしいんですよね。若い頃の自分の写真を人に見せる、みたいなのの延長線上のこっ恥ずかしさがあります。

そして何より、過去作を観たい、ということは「もしやこちらの力量を判断しようとしてるのでは?」とダークサイドに深読みしまして、じゃあその過去作が気に入ってもらえなかったらどうしよう、みたいなとこまで考えるわけですが、このあたりは本人に聞くわけにもいかないので、結果「わかりましたー」と言って資料を渡してその話はそれっきりにしてあります。

そして、もう一つあったのが若葉くんが子役時代から活躍している、大変経験豊富な役者さんだということです。撮影が始まる前には「いかに現場を仕切るか」みたいなことの重要性をプロデューサーたちとは話し合ったりしていたのですが、その際に忠告されるのは「(大意)役者は数多くの現場に出てるので、その現場の良し悪しがわかる」というもの。他のキャストも皆さんそうなんでしょうけども、特に若葉くんは子役時代から考えるとどんだけ現場出てるんだ、と。完全に不適切な例えですが、こちらとしては初めて付き合う彼女に元彼が100人いる、みたいな話でして、彼が過去に出演した錚々たる映画の監督陣などをwikiで見てはビビりまくってました。

あとは、リハをやらなかった、というのも大きい!なんせ陸にはセリフがほとんどないですから、リハやってなんぼ、みたいなシーンがほぼ無いんですね。ですのでやっていません。若葉くん本人は話しやすい好青年ではありますが、やっぱり単純接触効果って大事じゃないですか。事前の交流機会をあまり持てないまま、撮影に入っていくのはやはり少々不安なものがありました。

撮影にて

さて、そんな中で始まった撮影ですが、これもまあ吉沢くん回と同様の理由で詳細は省くとして、とはいえ表情で押し切っていく繊細なお芝居をビシバシ決めてくれまして、そのおかげもあって事前の不安は日数を重ねるごとに解消されていきます。本作のクランクアップは若葉くん演じる陸のタイトル戦のシーンを撮影した日だったというのもあって、撮影全体を通じていい関係を築くことができたなぁと思うことが多いです。

撮影現場で、若葉くんに特徴的だったのが、「よくモニターを見にくる(見たがる)」ということでした。これ、やる役者さんとやらない役者さんいますが、ハッキリ前者です。しつこいですがこれもこれで緊張するんですよね…力量を(略)。でも若葉くんとしては、自分が映っているフレームサイズを確認したり、画をチェックしたりということ以上に、僕とコミュニケーションを取って、作り上げていく、ということを重要視してたのではないか、と思います。

こう並べてみると、「撮影前の過去資料」の件にせよ「モニター」の件にせよ、要するに若葉くんはこちらがこの作品でどういう世界観を目指しているのか、を探ろうとしてくれていたんではないかな、と思います。自身の演技はその一部となるので、その最適な場所を探そうとしてくれた、というとちょっとポエムっぽくなりますが、「自分がどう演じるか?」だけだと内向きになるところ、「自分がどういった世界の中で演じるか?」と外にも視点を向けている彼の姿勢が、数々の作品で非常に高い評価を得る演技力の理由の一つなのかも知れません。

型の芝居に圧倒される

さて、ようやく話戻りまして若葉くんの役作りの話です。上記のような彼の姿勢に加えて、僕が特に圧倒されたのは、今回の題材上特に顕著だったとは思うんですが、「型」の芝居への熱心さです。撮影が始まる前、若葉くんは「自分が棋士役を演じるからには、誰よりも指し手が上手でなければならない」という宣言をしていました。そうして、その宣言を叶えるため、顔合わせから撮影開始時までずっと、常に肌身離さず将棋の駒を持ち歩き、「無意識でも綺麗に指せるようになる」まで練習を重ねてた、ということです。最終的には上述の栗尾さんが食い入るようにモニターを見つめても、「全く違和感がない」と言えるレベル、そして試写をご覧頂いた棋士の先生方からもお褒めいただけるようなレベルになっています。

ところで、じゃあなんで逆にそんなに指し手が大事なの?ってのがあるかと思うんですが、将棋のプロって殆どみんな小学生の頃には将棋に触れているんですね。そうすると、彼らは「強そうに見える指し手を指したい」と思って、練習したりするらしいんです。彼らの勝負はそういうところから既に始まってまして、「プロっぽい手つき」というのは単なる形態模写に限らない意味を持つ、ということを制作中の将棋指導を通して僕も知りました。

ちなみに余談ですが、若葉くんにこの時貸していた駒は僕の私物でして、彫り駒と呼ばれるそこそこいい駒(3万以上くらい)。木下グループ新人監督賞グランプリには副賞の50万円!というのがありまして、それを使って僕はこの駒を購入していましたので、このためこそ!という感じでお貸ししました。駒を買った残りのお金は貯金に回され…回しました。

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※これが将棋会館で購入した菱湖書稚山作の彫り駒。駒の文字の部分が彫ってあって、そこに漆が塗られているので「彫り駒」と呼ばれます。彫り駒→彫り埋め駒(掘った部分を漆で埋めて平らにしてる)→盛り上げ駒(埋めた部分にさらに漆を盛って文字を浮き上がらしてる)の順に高価になります。

あとあと、そんな若葉くんが撮影を終えるまでそして今に至っても「全く将棋のルールを知らない」というのは今回鉄板中の鉄板エピソードです。これは本作関係の多数のインタビュー等で話題になると思いますので、こちらも探してみてください。「なぜ知ろうとしなかったのか」にもこれまた理由がありまして、そこでも若葉くんの凄みを感じずにはいられません。

この若葉竜也(の手)がスゴい!

最後に、若葉くん演じる陸に関しては、本編中にぜひ観て欲しいところがありまして、それはとあるシーンで大写しになる彼の手、です(いや、他も観てよって話なんですが、あえて監督の僕が文字通りクロースアップしないと気づかないかも知れないところを伝えてます)。ある短いワンカットなんですが、その時に彼の手にキズがあるんですね。編集中に気づきまして、そういえば直前に時代劇か何かをやっていたということを言っていた気がするので、殺陣か何かでケガしたのかな、くらいに思っていたのですが、シーンの流れとしては非常に効果的なので、そのまま使用して、むしろラッキーくらいに思ってました。

で、初号が終わってその件を若葉くんに聞くと、サラリと「あれ、そうしてたら雰囲気に合うかなーと思って、撮影直前に見つけたささくれを剥いたんです」と言われて本気で仰け反りました。正直な話、この手元のカットに関しては「お芝居!」という感じでもないんで、こちらとしてはサクサク撮っていたうちの一つなんですが、その細部の細部にまで自分からの工夫を入れてくるというこの姿勢。今回の撮影を通して学んだ大きなことの一つです。精進します。


以上、浅川陸役・若葉竜也さんの話でした。「さん」とか「くん」とか敬称?入り乱れますがまあなんとなくなのでご容赦ください。

次回は、英一・陸以外の「このキャストを観てくれ!」を一挙紹介する予定です。