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【掌編小説】 さよなら人類

 いまや地球は、すっかりカンガルーに支配されてしまっていた。筋トレもしていないのに、その屈強なカラダとジャンプ力で勢力を拡大したのである。
 
  初めての犠牲者は飼育員だった。だか、飼育員もただのほほんと世話をしていたわげではない。
 彼らの驚異的な破壊力のキックには気を付けてはいたのだ。 
 だがある時油断した。 うっかり気をぬいていて、後ろから強烈なキックをくらいダウンした。 すると彼らは飼育員の腰にぶら下がっていた鍵を奪い脱走した。
 
 警察や地元の消防団が、彼らを捕獲するためにあちらこちらへと罠を張るが、ちっともかからない。 姿を見つけると囲んで捕まえようとするが、やはりあの格闘家のようなキックの前には皆、腰が引けてしまうのだ。

 そわなこんなで、モタモタしているうちに繁殖が進み、瞬く間に増えていった。数が増えたカンガルーは最強で、人間などあっという間に支配下に納められてしまった。

今や彼らは、彼らだけの言語を操り、コミュニティを形成した。体力で劣るものは知識を身につけ、手先の器用なものは強力な爆弾を作れるほどになった。油断するといつ人間たちがクーデターを起こすかわからない、その為の爆弾だった。

「このまま彼らを生かしておいては、我々の生活が脅かされるだけでなく、彼らが使うものは環境にも良くない」
「いっそ、人間を全滅させたらどうだろう」
そんな意見がどこからともなく出てきた。 皆が同意した。 
 そして『人類抹殺計画』が動きだした。 

「どうやって全人類を抹殺する? 中国やインドは、我々の作る爆弾では足りないほどの人口だぞ」
 中の一匹が言う。
「いいものがある。 日本にはないが、大抵の国がこっそり持ってるはずだ。 それを使わせてもらおう」

さっそく彼らは、各国へぴょんぴょん飛んでいった。
そして「人間よ、世話になった。ありがとう」
そう言って彼らはボタンを押した。

 一瞬、辺りは閃光に包まれ、何も見えなくなった。 土埃や煙でしばらく視界は遮られ、音も、何も聞こえない。

どれくらい時間が経ったろうか、ようやく辺りの視界が開けてきた。 だが、誰も声を発しなかった。 いや、そもそも生き物の気配すら感じなかった。  人間はもちろん、あのカンガルーたちの姿形もなかった。
 
辺りには岩の間に少しだけ雑草が残っており、青々と繁っていた草木も、咲き誇る花たちもいなくなっていた。水も、澄んだきれいな川は見当たらず、かろうじて茶色く濁った水溜まりがあるだけだった。

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