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職業作曲家の心得[1:日常編]

1) 音楽を広くも深くも聴く。先入観は持たない

 ともかくたくさん、音楽を聴くことです。人類の長い歴史に、様々な音楽がありました。今も。世界中で新しい楽曲が創られ続けています。どんなに聴いても、終わりはありません。どんどん聴きましょう。
 特定のアーティストやジャンルを、深掘りするように聴くことも大切です。一人の偉大な音楽家には、必ず影響を与えた音楽家がいます。その系譜をたどっていくのは、音楽を深く知るために重要なことです。
 一方で、プロである以上、広く聴く必要もあります。メディアで話題になっていたり、友人知人が聴いている音楽で、知らないジャンルやアーティストがいたら、即、チェックしましょう。音楽の蘊蓄を語るのは不要ですが、音楽そのものを聴いていることはプロとして必要なことです。
 音楽を聴く際には、先入観にとらわれないでください。様々な評論本で、音楽はジャンル分けされています。音楽ライターを目指すなら、そういう知識も必要でしょう。でも作曲家にはジャンル分けは要りません。自分の感性で受け止めて下さい。
 好きな音楽をたくさん知ることは、とても重要ですが、もし「嫌いな曲」が見つかったら、とても意味があります。何が嫌いなのか、どこが嫌いなのか、その理由を突き詰めてみることは、自分の中にある美意識を知るよい機会になるからです。

2) 映画も観る、本も読む、アートも親しむ。感動癖と分析力を併せ持つ

 どんなジャンルでも構いません。リフレッシュ効果も兼ねて、機会があったら、映画や舞台や展覧会には積極的に行きましょう。
 クリエイティブな感性を保つために、感動する心は大切です。斜に構えるのではなく、むしろ、自分の心が動くように仕向けましょう。映画を観てすぐ泣いちゃうとか、最高です。人の心や身体には慣性の法則がありますから、感動する癖をつけておけば、脳の回路がスムーズになるはずです。サウナで沢山、汗をかくのと似ていますね。心の新陳代謝も大切です。
 但、その時に、分析する視点も忘れないでください。感動して涙を流すと同時に、何故感動させられているのかの分析もやりましょう。シナリオ構成上の伏線が効果的だったり、問答無用なパワーがあったり、映像と音楽と演技の組合せが絶妙だったり、理由は多種多様にあるでしょうが、自分が作品を創るときのヒントが隠されているかもしれません。映画や演劇では、そもそも劇音楽の役割も大きいですね。自分が好きになった映画は、何度も観て、音楽の貢献について、確認しておくと良いと思います。
 感動癖と分析力。ウォームハート&クールヘッドは、一流のクリエイターに必須の能力です。

3) 1年後と3年後と10年後の目標を具体的に決めて、時々、確認(修正)する

 自分の目標を書きましょう。きちんと言葉にすることが重要です。
 できるだけ具体的な目標を決めて、そのために自分が日々、何をやるか考えましょう。数値化するのも一つの方法です。年間100曲つくると決めて、毎週、チェックしていくようなやり方です。
 将来の目標も定めておきましょう。そこから逆算して、何をやるべきなのか、充実した毎日を送るために、目標設定は大切です。
 自分で決めた自分の目標ですから、状況や気持が変わったら、変更すのは自由です。その際も、言葉にして書き直しましょう。目標が変われば、作戦も変わるはずです。有限の時間を有効に使いましょう。

 『プロ直伝!職業作曲家への道』(2013年7月刊)Chapter7から

 プロ作曲家育成を掲げた「山口ゼミ」の最終回で、毎回している話です。クリエイティブな職業は日々どの様にくらしていくかが実はとても大切です。自分の日常生活を見つめ直すことを薦めている訳です。

 1については、音楽をともかくたくさん、たくさん聴くのは大前提ということです。ストリーミングサービスの普及で、10年前と比べも信じられないくらいの多くの世界中の多様な音楽を簡単に聴くことができるようになりました。作曲家志望者には夢のような状況ですから、活かしましょう。その時に前情報に惑わされないようねというのが前述の趣旨です。ジャンルは後付の言葉です。音楽家が時代感を持って創った作品群に、評論家や宣伝マンが広めるためや分析視点で付けられたものです。言葉で先入観を持って聴くのはクリエイターにとってはマイナスなので、新しい音楽に触れた時に検索に使う道具、いわば「タグ」だと思って、本質ではない前提で上手に使いましょう。

 2の話をする時に必ず語るエビソードが、多胡邦夫さんの話です。山口ゼミの講師にも何度もお招きしているヒットメイカーは、稀代の美メロ作家です。僕が好きなのは、子煩悩な彼が映画館に子供を連れて行くのを嫌がられるという話です。理由は「パパはすぐ泣くから恥ずかしい」。感動しやすい 回路に脳みそを置くことができているんですね。最高です。まず感動して、その後に、何故自分が感動したのか自己分析してみましょう。人の小事を動かす手法が理解できたり、自分の好みが相対化できたりというメリットがありますよ。

 の目標設定は、「コーチング」的な話です。自分の欲望を言語化してそれに向かうという意識付けは大切です。アーティストマネージメントって、心理療法士に近いスキルが必要だったりします。実際、Hi-STANDARDを世に出した友人の小杉茂は、コーチングが本業になっています。この話で僕がチェックを促すのは短期中期長期の目標が一直線であることです。短期目標がある程度達成できた時に、ちゃんと中期長期の目標に近づけているか、もしそれが蛇行しているとする、欲望自体が捻れている訳です。簡単な目標でないだけに、短期目標を達成したら中期目標に近付けるような目標設定が健全です。自分のやりたいこと、欲しいものを言語化して、明確にすることは大切です。自分の自分への約束なので、変えたくなったら変えてよいのですが、その時は改めて、短期中期長期の直線の確認をしてみましょう。

 ヒット作曲家は幸せな職業です、ファンに感謝され、コンサートを観に行くとみんなが合唱しています。しかもたくさんの印税が入ります。もちろん誰もが簡単になれる訳ではありません。難しいけれど、目指す価値がある仕事、だから全力で取り組もう。「職業作曲家への道」として僕が伝え続けていることです。

7年続いている「山口ゼミ」は、まだ続いています。オンライン講座になって、遠方からの受講が楽になりました。興味のある方は、お問合せ下さい。



モチベーションあがります(^_-)