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Sep.11thに『サマー・オブ・ソウル』を観て感動した話〜僕らは歴史の流れの中に生きている

 それは偶然でした。伝説の「ハーレムカルチュラルフェスティバル」が映画化され、Facebookの友人たちも絶賛していたので、絶対観なくてはと思っていて、ちょうど土曜の午後に日比谷シャンテでなら時間がある、とチケットを取りました。朝のニュースで、NYに悪夢のテロがあったSep.11thから20年目だと知りました。

その日に映画を見た偶然と、20年前の思い出


 20年前のその日、僕はマンハッタン・アッパーウエストのコンドミニアムにいました。
 ゴスペルの紹介者としての活動が軌道に乗り始めていた塩谷達也を連れてNYC出張でした。ゴスペル教会体験のツアーも終わり、翌日からOFFで僕の部屋に泊まっていた塩谷に早朝に起こされました。テレビを指して「見て下さい」と言われて、僕が答えたのは、本当に「これ、なんの映画?」でした。「違うんです。CNNのニュース!」「え、ヤバいね。WTCが爆発してる」「いや、飛行機が突っ込んでる!」「あ、ホントだ。。。。。。」そんなやりとりがあったのを覚えます。80丁目のアムステルダムAve.に泊まっていたので、東京で言えば、品川駅が爆発したときに吉祥寺にいるような距離感です。TVを通じた情報だけで信じられない感覚でした。塩谷も日本からのメールで事故を知ったそうです。ほどなく、地下鉄が止まり、窓から外を見るとアムステルダムAveが自宅に歩いて戻る人で溢れ出しました。マンハッタンから掛かる橋は通行止めになり、僕らは文字通り、陸の孤島にいることになりました。ゴスペルツアーの参加者の多くは女性で、JFK空港から出発する時間でしたが、もちろん飛行機も飛ばずに空港に足止めされているとガイドから連絡がありました。そのまま6日間NYから動けませんでした。

傷ついたNYCの人々とアメリカ人の威信


 そこからの体験は、僕が大好きなニューヨークという街の人達が傷ついているのを感じて、柄にもなく教会で祈ったりしました。幸い友人知人に被害にあった人はいませんでしたが、悲しみに沈んだ時間を過ごしたのを覚えています。一方で、再開したブロードウェイを観に行った時に、アンコールで客席も全員「God Bless America」歌い出して、違和感も覚えました。NYは、最もアメリカ的でありながら、同時に「巨大な田舎であるアメリカの中で、NYだけはアメリカじゃない」という側面もあって、それが好きな理由の一つだったのですが、「あ、NYもアメリカになっちゃった」って、なんか残念な、うまく言葉にできない気持でした。

 それから20年間、ブッシュ大統領はイランに戦争を仕掛け、フセイン政権を崩壊させ、アフガニスタンも攻撃して、テロの首謀者とみなされたビンラディンを殺した発表がありました。「民主化した」と胸を張っていたのが大間違いだったのは、米軍が撤退を始めたら、タリバンが軍事的にアフガンを支配したことで20年経って証明されています。アメリカのパワーは長期低落し、イデオロギーとしてではなく、統治手段として共産党を活用した中国が、経済力をつけ、アメリカは長期低落を続け、パワーバランスが変わってきました。そんな歴史の中にいることを思いだしたのは、『サマー・オブ・ソウル』で1969年に語られている内容が、昨年のBLMと同じことだったからです。アメリカは最高のポピュラー音楽を産み出し、GAFAなどのITジャイアントが生まれているスゴイ国ですが、数々の矛盾を抱えたまま歴史を重ねているのですね。

控え目に言って最高の映画

 めちゃめちゃ前置きが長くなりました。『サマー・オブ・ソウル』は音楽を愛してる人はマスト・シーの映画です。1969年に6日間に渡って、NYのハーレムで行われた「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」のドキュメンタリー映像をまとめた映画です。若かりしスティビー・ワンダーの天才ぶりが、突出して見えないほど、アフリカン・アメリカンミュージシャンの才能が一堂に会しています。
 1969年は、マーチン・ルーサー・キングが暗殺された翌年に当たり、黒人公民権運動の真っ只中です。Nigroという言葉が忌避され「Black is beautiful」とアメリカン・アフリカンがアイデンティを強く主張し始めた時期のようです。そういった歴史的背景と音楽の有機的な関係を肌で感じられる映画です。
 6日間の映像が全部残っているのでしょうから、『サマー・オブ・ソウル』の2時間は、前哨戦ダイジェストとして、Netflixか Amazonで全編公開して欲しいです。演奏も素晴らしいのですが、黒人音楽家(そして黒人だけではなく)と観衆が、とてつもないパッションを持っていることが感じられます。以前、noteで紹介した『イン・ザ・ハイツ』とも『メイキング・オブ・モータウン』とも繋がっています。(Motownのアーティストも出演しています)全部まとめて観ると、感動も知見も深まると思いますので、改めてお薦めします。

歴史的意義と自分の個人史的価値

 『サマー・オブ・ソウル』を観た感動を個人史に引きつけて話すと以下の通りです。

 アフリカから奴隷と連れてこられた黒人たちが、西欧から移り住んだ白人の音楽と混じり合って、ゴスペル、ジャズ、ブルース、ロックといった、ポピュラー音楽のアートフォームが生まれた。その音楽がアメリカ資本主義とともに世界に伝播した時代にアジアの極東に生まれ育った僕は、その魅力に取り憑かれて、人生を踏み間違えて音楽を仕事した。アメリカ経済の象徴であるWTCをイスラム原理主義のテロリスト団体が爆破した日にマンハッタンに滞在していて、僕自身も深く傷ついた。それから20年経って、BLM運動の源流に繋がるような映画を観て、深く感動した。

 理屈っぽくてすいませんww 自分の人生にとって、音楽が占める割合が大きいこと、音楽の価値をまさに信仰のように無条件に信じていることを確認する機会となりました、

oh, happy day!gospel is good news!


モチベーションあがります(^_-)