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インディーズアーティストの複業としての職業作曲家という在り方

 欧米では一般的でしたが、日本でもコーライティングという言葉が広まっていました。エイベックス創業者の松浦さんがCEO退任のメッセージで「Co-Writingによるゲームチェンジ」と書かれていて、J-Popのど真ん中まで、このムーブメントは来たんだなと実感しました。そのことについては以前書きましたので、こちらをご覧ください。

 日本のコーライティング・ムーブメントの本家を自認する僕としては、コーライティングの様々な効用、可能性をもっと説明してムーブメントとして広めていこうと思います。コーライトの広がりは音楽家主導の音楽制作、創作の流れの結果でもあり、それを加速する役割も果たすでしょう。

 今回は、インディーズで活動をしているアーティストにとってのコーライティングの価値について書きます。

1)コーライティングは1曲毎に解散するバンドみたいな行為
2)得意分野を活かして、職業作曲家になれる
3)複業としての職業作曲家の効用と相乗効果
4)機密保持やSNS上での責任感などの注意事項

1)コーライティングは1曲毎に解散するバンド、ユニットみたいなこと、いつでも再結成して良い

 コーライティングの考え方、やり方については、拙著『コーライティングの教科書』に全部まとめましたので、そちらを読んでもらいたいのですが、
 一番大切なのは、分業でも効率でもなく「化学反応を目指す姿勢」です。レコーディングやライブで、素晴らしいハプニングが起きた時にに「バンドマジック!」という言い方をします。個々の演奏力では優れたミュージシャンは他にたくさんいるけれど、この組合せでしかできない演奏ができた時に、形容する言葉です。コーライティングは、1曲を0から創って、プレゼンテーションできるレベルのデモに仕上げる時に、その組合せでしかできなかっただろう「化学反応」=1曲毎のバンドマジックを目指すのがコーライティングの醍醐味です。
 バンドに比べて優れているのは、続けなくても良いことです(笑)どんな素敵な人間関係も、継続すると軋みや問題が出てきます。しばしば音楽とは関係無いことが障害になります。コーライティングは良ければ同じメンバーでやればよいし、やらなくても良い、「バンドの良いとこ取り」みたいな仕組みだなと思います。


2)得意分野を活かして、アーティスト活動と両立しながら、職業作曲家になれる

 アーティスト活動を継続している音楽家は、何か優れた点、取り柄を持っているでしょう。アーティストで社会的に成功するのは、得意技があることは大前提ですが、他にも色んな要素があります。その中には運を掴むということもあり、セルフプロデュースして、自分のファンを増やす、戦略的な動きも必要になっています。
 コーライティングでは、ターゲットとするアーティストと楽曲イメージさえ決まれば、そこから先は純粋にクリエイティブな作業です。シンガーソングライターなら作詞と仮歌に、DJ/トラックメイカーなら、イケてるリズムトラックとミックスに、ギタリストは抜群のカッティングに、集中してクオリティを上げる貢献することができるはずです。それを継続して制作していくと、「職業作曲家」の仲間入りできる可能性があるのが僕が薦める理由でもあります。
 今はコンペに採用されると、作詞作曲編曲をセットで獲得するチャンスがあります。編曲はギャラとして数カ月後に入金されます。印税の金額は曲の良さ次第、というのはちょっとキレイ事で、現実にはアーティストパワーと運の要素のほうが大きいのが現実でありますけれど、「夢の印税生活」の入り口に立つことができます。                    

 コンペに参加するには何らかの業界への窓口が必要ですが、参加できれば、作曲家の実績よりも楽曲そのもので判断されます。概ね公平なジャッジメントであると言えます。

3)複業としての職業作曲家の効用と相乗効果

 音楽界に人脈と情報が得られるのもコーライティングの大きな効用です。今、世界で流行り始めているサウンド、注目されているアーティストなどに感度が高いことは職業作曲家の必要条件です。良いメンバーとコーライティングすると、創作の過程で貴重な情報を得ることができます。
 日本は欧米に比べて、いやアジアの中でも、アーティストのビジネスマインドと自己責任感覚が薄いという特徴があります。僕がよくいう喩えは「5人しか観客のいないライブハウスでも、良いライブさえやれば、誰かが自分をスターにしてくれる」と思ってガムシャラに頑張るバンドやシンガーソングライターが多いことです。(そういう意味ではコロナ禍は良い冷却期間かもしれませんね)
 今回のトークイベントのスピーカー、フリクルの海保けんたろー君は、インディーズアーティストにビジネスマインドの必要性をずっと説いてきた人です。最近は「アマチュアミュージシャン自身にビジネススキルを身に付けてもらう意識付けは難しい。ビジネスが分かる仲間が必要、バンドメンバーにビジネス担当が必要ということを認識してもらい、ベースが抜けたらベーシストを探すように、ビジネス担当を作って欲しい」と言い始めていて、非常に共感しました。

4)機密保持やSNS上での責任感などの注意事項

 コーライティング自体は、自分たちのための作品の創作にも使える手法ですが、本稿は「職業作曲家」という切り口にしていますので、メジャーアーティストのコンペに提出するデモをつくるという前提の取り組みになります。その場合、コンペのオーダーシートに書いてある情報を一切外部にもらなさいというのが重要なルールです。
 コンペシートには、次にリリースする楽曲が予定しているタイアップの内容など、事務所やレーベルが情報解禁の時期をコントロールしたい重要な秘密が含まれている場合が多くあります。日本の音楽業界は、「村社会」的に明文化されていない「掟」が性善説で守られている世界でもあります。職業作曲家になるには、その「村の掟」を理解することが必要で、ライブハウスとリハーサルスタジオの緩い空気感だけでは済みません。芸能界ともアクセスしたシビアな世界です。それはアーティストとしてステップアップしていくと必ず出くわす世界でもあるので、インディーアーティストも知っておいて損はないトンマナかなという気がします。

 自らの得意技を生かしてコーライティングしてコンペに参加して、作曲家業を複業にするというのインディーズで活動するアーテイストに薦める理由をまとめました。


 そんなことをテーマに9月にオンライン・トークイベントやるので、興味のある方はご参加下さい。

 もう7年やっている「山口ゼミ」受講生には、アーティスト活動経験者もたくさんいます。作曲家活動に幅を広げようとする方は受講を検討してみて下さい。

 修了生たちのクリエイター集団「Co-Writing Farm」は、コーライティングのワークショップも定期的に行っています。そこに参加するのもコーライティングをする有効な方法です。9月ころの実施で企画中のようなので、peatixでチェックしてみて下さい。

コーライティングに興味を持った方は、こちらの書籍もチェックしてみて下さい。電子書籍版あります。



モチベーションあがります(^_-)